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兄妹



「うわぁ...うわぁ、やめてくれっ」

「い、いやだっ

やめてくれえ!!」

さっきとは一変し、悪夢にうなされるかのように、頭を抱え転げまわる男たち。

そのまわりを、式神がゆらゆら揺れるように、浮遊するように囲んでいた。





「舞、大丈夫か。

遅くなってごめん、痛かったな」

殴られて少し赤くなった頬を、詩はやさしく包む。

舞の知る、やさしい兄の顔だった。

さっきのは夢だったんじゃないかと思うほど...

舞は、ぎゅっと詩に抱きついた。

緊張が解け、とたんに涙が溢れだす。

詩はやさしく抱きしめ、落ち着くまでずっと、その背中をさすっていた。






「あれは...なんなの...」

舞は、男たちを指さす。

「悪い夢を見てるんだ」

「どんな...?」

「知らない方がいい」

そう言った詩の瞳は、少し寂し気にみえた。

その時だった。






「奏!奏!

待ちなさい!!」

悲鳴に似た声。

母だ...

ぱっと、詩と舞がみると、奏が涙目でかけてきていた。

後ろから必死で追いかけてきた両親。

舞の姿をみつけ、母はほっと胸をなでおろす。





「舞!!舞!!」

そう言って、娘を、力強く抱きしめる。

父も安堵の表情で、「無事でよかった」と言う。

奏は...と、詩がみると、奏は、未だ悪夢に苦しむ男たちをみていた。

その様子が、少し変だった。

はぁ、はぁ...と荒く息をする奏。

ただ男たち一点を見つめ、その瞳は揺れていた。





「奏?」

両親が名前を呼んでも、見向きもしない奏。

次の瞬間、奏のまわりに、ぶわっと式神が舞った。

「危ない!!

下がって!!」

詩は両親と舞を、奏から遠ざける。

しかし式神はもうすでに暴走寸前。

シアター内を無数に駆け巡り、その動きも量も、奏がコントロールできる範囲を超えているように思えた。





「奏!!

奏!!

式神を抑えろ!!」

詩は叫ぶ。

そして、奏が震えていることに気づいた。

その姿が、自分に重なる。

「兄ちゃん...兄ちゃんっ

どうしたらいいか、わからないんだ...っ」

その恐怖が一番わかるのが詩だった。

過去の記憶がよみがえる。




ー教室で暴走させてしまったアリス。

クラスメイトを、その気もなく傷つけてしまった。

化け物、とよばれた...

自分が、自分じゃなくなってしまう感覚...

そんな時、あの人は...

先生は...





ー詩、大丈夫。

怖がらなくてもいい。

先生も、大丈夫だから...





「奏、大丈夫だから。

落ち着いて。

お前なら...お前なら式神を抑えられる!」

詩は、必死に叫んだ。

奏に、奏に届いてほしい...





奏は震える声で言う。

「姉ちゃんのこと...傷つけようとしたやつらが許せなくて...っ

姉ちゃんが怖い思いしてるのは嫌だったから、

倒してやるって思って...っ

姉ちゃんを助けたいって思ったら...アリスが、アリスが止まらなくて...

怖い...怖いよ...兄ちゃんっ!!!」

シアター内に奏の悲痛の声が響きわたった。




それはすべての式神を震わせる。

途端に、また式神の様子が一変した。

今まで統率のとれなかった式神。

それが、今度は鋭い切っ先をそろえ、ある一点に向かっていた。

それは、舞を襲った男たち。





まずい!!

こんな量の攻撃を受けたら、確実に....死ぬ!!

詩は、考えるよりも先に、走り出していた。








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