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兄妹



「ちっ...

やっぱりこいつはアリスじゃなさそうだな。

この状況でも抵抗しないってことは...」

男は、ぺしぺしと、ナイフを舞の首にあてる。

恐怖で、何もできなかった。

「弟のほうがよかったか?

まだガキだし、アリスもろくに使えないだろ」

奏...?!

その言葉に、んんっ!と声をあげる。

「なんだ静かにしろ!」

ばしっと殴られる舞。

「まあ、こいつを人質にとればいいだろ。

あの東雲 詩と真っ向勝負なんてごめんだ」

「ああ。

あいつは化け物だからな」

化け物...?

あの、兄が...?

笑顔で駆け回る兄からは、そんなこと想像できなかった。

何を言ってるんだろう、この男たちは...

「早くここを出るぞ。

気づかれる前にとっととずらがって、作戦立て直そう」

「ああ、そうだな。

なあ、アリスじゃなくても値はつくのか?」

舞を縄で縛りながら、男は言う。

「つくよ。

中でも式神のアリスはかなりレアだからな。

世界中探しても、その国の固有種...固有アリスは珍しい。

日本にしかないんだ、海外だと値は張る。

名前は変わってるが、正真正銘、この子には東雲の血が入ってるからな」

ちらりと見えたネームタグのキーホルダー。

“クルルギ マイ”

「まあ、ボスがいなかったら、こうやってこそこそ暮らすアリスの家族なんて見つけらんねえよ」

「しっかしボスはよく見つけましたね」

「バカ野郎、ボスをなめんな」

そう、男たちが会話をしている時だった。





ぶわっと舞のまわりに、何か舞い上がる。

...無数の白いもの。

はっと男たちは構えた。

畜生、油断した...っ

「こいつアリスじゃないんじゃなかったのかよ」

舞から少し離れる男たち。

「隠してたんだ....っ

でも心配すんな、まだ子どもだ。

おい、幻覚でなんとかしろ」

「いや...っそれが...」




男が言おうとした時、ぱっと式神が舞い、その鋭い切っ先で舞の縄を切った。

はぁっと、力の抜ける舞。

そして、一点を見つめてつぶやく。

「お兄ちゃ...っ」





男たちは顔を引きつらせてそちらを向く。

とん、とん、と一段ずつ、ゆっくりと降りてくるその姿。

「東雲...詩...っ」

「俺のこと...知ってるんだ...」

詩の瞳はぞっとするほど冷たかった。

「知ってて、こういうことするなんて...

ただのバカか、それともただの死にたがりか...

どちらにせよ、

愚かだ...」

舞も、初めてみる兄の姿に、別人のような雰囲気を感じた。

後ずさる男たち。

「アリスは、使えないよ。

...俺以外ね」

ぱっと、詩がもっているものを放り投げ、またキャッチする。

暗いシアター内、朱く光る石のようなものが詩の手におさまっていた。

結界か...

男たちは唇を噛み締める。

でも...そんなの関係ない、こちらには....っ

男はばっと、また舞へ距離をつめる。

「きゃあっ!!」

舞の悲鳴があがる。

しかし、男たちはぴたりととまっていた。

舞は恐る恐る顔をあげる。

青ざめた顔をする男たちの喉元には、あと数ミリの距離に、ナイフよりも鋭い式神が付きつけられていた。

「動くな」

低く冷たい声。

「俺の妹に、触るな...

俺の妹に与えた恐怖...いや、それ以上をお前たちにみせてやる」






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