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家族へ



「驚かせてごめんな」

詩は、そう言ってニッと笑った。

男の子は人見知りはせず、ただただ目の前の詩が気になるようだった。

興味津々な目だ。

「パパかママの...お客さん?」

詩が答えようとした時だった。





「奏(ソウ)~っ

また勝手に外に出ようとして!!

だめって何度言ったらわかるの」

奥から、女性の声がきこえる。

「わっやばい、ママだっ」

奏と呼ばれた男の子は、悪戯が見つかった時のような顔をする。

詩はすっと立ち上がる。

奥から現れた女性、奏の母親....2人は目を合わせた。




おそらく一瞬の間。

しかし、恐ろしく長く感じた。

その間に、2人は理解した。

お互いが誰であるかを...

詩は、意外と自分が冷静であることに内心驚いていた。

ゆるぎない瞳で、女性を見つめた。

女性の瞳は動揺で、揺れ動く。

そして、口にはっと手を当てる。






「どうした琴?

客かー?」

その声に、また止まった時がゆるく流れ始める。

奥から歩いてきた男性。

琴と呼ばれた女性はそっと振り向く。

そして、少し震える声で言った。





「あなた....詩よ。

詩が、きたわ....」

母、琴が位置をずれて、父親とも目が合う詩。

父親もまた、驚き、瞳が揺れ動いた。

15年以上ぶりの、親子の再会だった_____






「奏、自分の部屋に行ってなさい」

「えーなんで?

僕外で遊びたいよ」

「だめよ」

ぴしゃりと遮る琴。

不満そうな、奏。

「ほら、二階にお姉ちゃんがいるでしょ。

遊んでもらいなさい」

琴は少々強引に、奏を二階へ促す。

「えーお姉ちゃん遊んでくれないもん」

まだぶつぶつ言っているが、強制的に連れ戻される奏。

そんな後ろ姿を見送った。






詩は、リビングに通された。

掃除が行き届き、きれいだった。

ダイニングテーブルに促され座る。

琴がお茶を出して、父とともに目の前に座った。

流れる沈黙。

皆、最初の言葉を探り選んでいた。






そんな中、最初に口を開いたのは、詩だった。






「東雲 詩です。

成人して、今は20歳です。

...先日、アリス学園を卒業したことを報告に来ました...一応。

あと、これまでもこれからも苗字は“東雲”を使います。

だから、安心してほしい...というかその...」

うまく、言葉を紡げない。

こんなこと、初めてだった。

「俺の顔なんかみたくなかったと思うけど...」

詩らしくない、消え入りそうな声だった。





「違う...違うの...詩。

ごめんなさい...っ」

突然、目の前で母親は堰を切ったように涙を流した。





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