兄妹
「おそいな、舞...」
父がふと言った。
確かに、と詩は言う。
見てこようか、と席を立った時だった。
「に、兄ちゃん...っ」
奏の顔が、青ざめ、震えていた。
何か、ただならぬ状況ということはすぐにわかる。
「どうしたの、奏」
母も心配そうにいう。
「姉ちゃんが...っ
姉ちゃんが...!!」
はっとして、詩は両親の間にいる奏のそばに寄った。
「どうした、舞がどうした?!」
「お、怒らない...?」
震える奏。
「怒らないから!
姉ちゃんに何かあったのか?」
「ぼ、僕....
式神のアリス使ったんだ。
ちょっといたずらしようと思って...
姉ちゃんにはりつけて...
そしたら...そこから...っ」
奏は頭を抱える。
詩は取り乱す奏に式神を張り付ける。
しかし、揺れ動く奏の感情。
式神を通して見える景色を、さらに式神で見るのは困難のようだ。
「落ち着け奏!!
何が視える?!」
「姉ちゃん、捕まってる!!
男の人に...2人いて、ひとりはナイフをもってる...」
ひゃっと震えだす、母、琴。
「舞っ舞はどこに?!」
「ちょっと待って母さん」
詩は、誰よりも冷静だった。
「奏、落ち着いて...
舞は、どこにいる?
場所の特徴は...?」
「わわわかんないよ....っ
姉ちゃん、ずっと怖がってる...
震えてる...っ
助けてって、助けてって、兄ちゃんのこと呼んでる!!
早くしないと...っ」
まずい...
舞との気持ちが共鳴しすぎて、冷静さを失っている...これだと...
詩はふぅっと、息を吐く。
「しっかりしろ奏!」
今までにない、真剣な詩の声と瞳。
それに、ぴたりと震えがやんだ。
「お前は、式神使いだ。
姉ちゃんを、舞を助けるぞ。
俺がいる...俺が必ず助けるから」
その言葉に、涙目で頷く奏。
「心を落ち着けて...冷静に...
泳ぐ魚、みただろ?
イメージはあんな感じ。
静かに、身を任せて...
余計なものを取りはらって...」
詩に言われた通りに、やってみる。
すると、すっと気持ちが落ち着いた。
「暗い...暗くて...何もみえない...
あっ...たくさん座れる場所がある...!
前に、おっきなスクリーンがある....っ」
はっとして、詩はあたりを見渡す。
そして一点を見つめた。
....あそこか....
今は準備中の、サーカスのテントのような施設。
「怒るもんか、奏、よくやった!!」
詩は、ぽんぽんっと、奏の頭をなでる。
「兄ちゃんっ!」
行こうとする詩を呼び止める、不安げな奏。
「奏はそこにいて、離れないで。
父さんも、母さんも...っ」
でも...っという奏。
「大丈夫!
俺、強いから。
舞も、無事だから心配しないで」
にっと笑ってみせる、安心させる笑顔。
詩は、行ってしまった。
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