兄妹
「いくらなんでもあれはないからっ」
「なに怒ってんだよー楽しかったからいいじゃん」
「何も言わずに飛び降りるなんて信じらんない」
「俺は早くやりたかったのーっ」
少し遅めのランチ。
パーク内のイートインスペースで好きなものを買って食べていた。
詩と舞は先ほどのアトラクションのことで言いあいをしている。
でも奏はそれをみて、嬉しそうだった。
両脇の両親をみて、「兄ちゃんと姉ちゃん仲良いみたい」と笑った。
両親も、その様子に微笑んで頷いた。
「ちょっと飲み物買ってくる」
舞はそう言って、席を立つ。
ついていこうか?という詩。
「いいよ。すぐそこだしひとりで行ける」
その言葉に、詩は頷いた。
「お、やっとひとりになった...」
ジュースを選ぶ舞の姿。
物陰からみる2人の影。
「こいつでいいんだよな?」
「ああ。
その子のアリスはみていないが、さっきその弟が出しているのをみた。
間違いない、あれは式神のアリス...」
「でも、あの子のアリスはみていないんだろ?」
「ばかいえ。
なくったっていいんだ、むしろアリスで抵抗されず好都合。
その血さえ入っていれば....どうとでもなる....」
男たちは、にやりと笑みを浮かべた。
舞は、ジュースを買いに行ったものの、ちょうど飲みたかったものが売り切れで、少しだけ離れたところへ行っていた。
やっと買えて、戻ろうとした時だった。
物陰から走り出る、小さな影。
見覚えがあるその姿にはっとする。
「奏?」
なんで奏がひとりで...
あたりを見渡しても、両親も詩も見当たらない。
あの好奇心旺盛さといったら...
舞はため息をついて追いかけて行った。
「奏!!
奏!!待ちなさい!!」
そう呼び掛けても、奏は振り返らない。
聞こえているはずなのに、なぜか舞を無視している。
様子が..なんかおかしい...
そう思うも、奏が入っていった準備中のシアターの中へ足を踏み入れた。
そこは、外とは違い薄暗く、そしてとても静かだった。
「奏...?
奏...?
どこにいるの...?」
小さな声でも、よく響いた。
「隠れてないで出てきて...
パパとママのとこ、帰るよ...奏。
...離れたら危ないってパパとママが...」
そう言った時だった。
ばっと、急に後ろから飛び掛かってきた男に動きと口を封じられる。
「僕はここだよ~ってな」
ひゃひゃひゃっと男は笑う。
「かわいい弟は...ただの幻覚。
離れたら危ないのはお前のほう」
ひっと声をあげ、じたばたする舞。
「おっと騒ぐなよ?」
その言葉に、舞は抵抗をぴたりとやめる。
もう一人の男が、ナイフを首元に近づけていたのだ。
「お前には俺たちときてもらう」
恐怖で身体が震える、冷汗が背中を伝う。
怖い..怖いよ...
私、殺されちゃうの...?
嫌だ...怖い...っ!!
そんな時、なぜか思い出す....詩の顔。
ーすぐに助けに行く!
舞がどこにいても、俺がすぐに助けにいくよ
アトラクションで言っていた言葉だ。
お兄ちゃん、お兄ちゃん...
助けて...っ!!
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