このサイトは1ヶ月 (30日) 以上ログインされていません。 サイト管理者の方はこちらからログインすると、この広告を消すことができます。

兄弟



その夜。

奏は詩と一緒に寝るといってきかなかったので、詩は奏の部屋で一緒に眠った。

今日たくさん遊んでよほど疲れたのか、奏はすぐに眠りに落ちた。

詩はなんだか眼が冴えてしまって、リビングへとおりた。





ダイニングの、オレンジ色のダウンライトだけがついていた。

夕食のときとは違って、静かなリビング。

父の姿があった。

父は詩に気づき、手招きする。

詩はそっと近づいた。

父は、外を眺めていた。

「何かのむか?」

きかれて、首をふった。

「眠れないのか」

静かな声に、ちょっとだけ...と返す。





「奏の部屋、びっくりしたんじゃないか?」

唐突に、父がいう。

「え...」

少し考えて、納得した。

奏の部屋は、異常なくらいにおもちゃやぬいぐるみ、ゲームであふれかえっていた。

「僕たちもね、奏とどう接していいかわからなくて...

なるべくストレスはかけないようにしたいんだけど、奏にとって外は危険だから。

たくさん我慢させてきた。

まだ幼い子どもだ。

アリスだろうと、そこらへんの子どもなみに、癇癪は起こす。

そのたびにアリスが出てきてしまうんだ」

やはり、奏はまだうまくアリスを制御できていないようだった。

「僕たちは奏にアリスを使わせないようにと、それが奏のためだと信じて...

15年前と変わらないって思うだろ...」

情けないな、と自嘲的に父は笑う。

「琴は、15年前のように怒らなくなった。

詩にした過ちは繰り返してないよ。

確かに、お義父さんの手紙を読んで変わったんだ...

でも、その代わりに奏をうんと、甘やかしたんだ。

のぞんだものはすべて買い与えて、機嫌をとった。

外で遊ぶこと、アリスを使うこと以外のことは、奏がのぞんだものを可能なだけ叶えた。

あの部屋がすべてだ...」

たしかに....

楽しいおもちゃや新しいゲームはたくさんあったが、寂しい匂いがした。

窓の近くに、小さな踏み台があった。

それにあがれば、奏の身長でやっと外が見える。

きっとあそこから、外を見ていたんだな、と思った。

「親として、何が奏のためなのか、今一度考えないといけない....

それは、わかってる。

わかってるんだけど...

また、家族バラバラになるのは正直つらい。

ましてや、奏がのぞまない道なんて....」

「わかってる...」

静かに詩は言う。

「だけど...っ」

父はしっかりと、詩の目をみる。

「もし万が一、奏の気分が変わって、学園に行くと言い出したら...

その時は...

詩に、奏を頼みたい。

琴や舞は、僕が守るから...」

詩はにっと笑った。

「うん、あたりまえ。

そのつもりで、その覚悟できた。

奏のことは、俺が守る。

何に変えてもね___」

静かなリビング。

男同士の会話。

親子の背中がそこにはあった。






「あと...

来た時も言ったけど、俺は“東雲”の姓を使い続ける」

この家は父の姓、“枢木(クルルギ)”だった。

「うん...

きっとその方がいいと、僕も思ってるよ___



これだけは言うけど、苗字なんか関係ないさ。

いつでも帰ってきてほしい。

詩が来たらきっとみんな、喜ぶよ...

奏はあんなに楽しそうにはしゃいでいるし...

琴もどこか表情がやわらかくなった...

舞はあんな感じだけど、きっと頭では理解してる....




ここは詩の、家だよ。

また引っ越したとしても、僕たちがいる場所が、君の帰る家になる」









.
6/6ページ
スキ