兄弟
奏は終始、本当に楽しそうだった。
近くの公園に行き、たくさん詩に遊んでもらっていた。
滑り台、ブランコ、アスレチック遊具...
ボール遊びや砂遊び...
ジャングルジムではヒーローごっこ。
詩は白熱の演技で悪役を演じ、倒れ方もリアルだった。
奏はそれにも喜んで、自慢のパンチをお見舞いしていた。
詩も同じ歳かのように、服が汚れるのも気にせず遊んだ。
「なんか、楽しそう..」
2人の様子をみて、他の子が寄ってくる。
「よっし!
みんなで遊ぶぞ!!
ほらっみんなでかかってこい!!」
「わーい!」
「仲間に入れて―っ」
しかし、奏はなぜか固まっていた。
同じ歳くらいの誰かと一緒に遊ぶのなんて、初めてに近いことなので、緊張しているようだった。
そんな奏をみて、詩は笑う。
「ほら奏、みんな入れてほしいってさ。
数は多い方がたのしいぞー?」
詩はぽんぽんとその頭をなでる。
奏は、頬を赤らめ、うん!と頷いた。
一方家の中では、舞がそわそわと落ち着きなく過ごしていた。
「舞も、一緒にいけばよかったな」
その様子をみて、父はやさしく言った。
「別に...帰りが遅いから気になってるだけ...」
舞は、目をそらしていう。
詩は舞もと誘ってくれたが、舞は断っていた。
母は、その複雑な気持ちを察してか、「舞、ありがとね」とその頭をなでた。
えっと、上を向くが、母は何も言わなかった。
舞にも、たくさん気を使わせてしまっていたことを、さっき知った。
小さな身体で、こんなに考えていたなんて...
「あっこら待て!!
奏!!
まだ拭いていないだろーーっ」
そうやって、半裸でリビングを走る詩。
遊びから帰ってきて、奏とお風呂に入っていたのだった。
奏はきゃーきゃーと楽しそうに、詩から逃げる。
詩もまた、笑いながら、小さな小さな弟を追いかけた。
「ひゃっ」
リビングにきた舞は、詩とぶつかりそうになって驚く。
目の前に男の人の身体があって、目をそらさずにはいられなかった。
「わっごめんごめん!」
その様子をみていた父は、「詩、早く服を着なさい」とせかす。
なんだか家族みたいだな、と思ってはっとする。
....これが、家族なんだと....。
「はーい」
詩は心地よく返事して、つかまえた奏とともに脱衣所に戻った。
夕食。
初めて、家族が全員そろった食事だった。
詩にとっては、食卓を囲むこと自体なかなかない経験で、少し緊張してしまう。
「いただきます」
みんなで手を合わせて、たまにちらっと目が合って、ドレッシングとってと誰かが言って、人数分の食器の音がここちよくリビングに響いて...
まさか、こんな日が自分に訪れるなんて思ってもいなかった。
「詩、どう?」
さっきよりも静かな詩に、母は不安そうな目を向ける。
「えっ
あ、!
うますぎて、食べるの夢中なってた!
美味しいよ!!」
詩の言葉に、ほっとする母。
「でしょ?
ママのハンバーグは世界一なんだっ!!」
得意げに言う奏の口のまわりはソースがべったりとついている。
もう、とため息をついて口をふいてあげる舞。
ありがとう、と奏。
そんな食卓を感慨深げに、口数少なく見守るのは父だった。
.