兄弟
奏の準備ができるまで、玄関のそとで待つ詩。
電話をかけていた。
「あーナル...
あの件なんだけど、思いのほか手こずりそうで...」
そういうと、通話口の向こうで盛大なため息が聞こえる。
「だから僕は反対だったんだ...
ただでさえ、アリス学園の入学は拒否されることが多いのに...
それを身内の君がやる必要はない。
どうせ同情でもしたんでしょ?」
鳴海の言葉にぐうの音もでない詩。
鳴海もそんな詩の気持ちを理解していないわけではない。
自分も、学園の教師になってからは避けては通れぬ道だったから。
棗や蜜柑をスカウトしたときも、そうだった。
幼い子どもを家族から切り離さなければならない。
しかし、子どものアリスとしての成長を考えると、学園での教育は妥当と思えたから...
心中はいつも複雑だった。
「くれぐれも、高校長の顔をつぶさないでよ。
学園本部やその他もろもろ、君たちの特殊なアリスのことも...
すべてを鑑みて、これ以上入学の先延ばしはできない。
早いとこそっちは他の職員に任せたら?
手配ならすぐに...」
「待って!」
すぐに反応する詩。
「俺がつれて行く...もう少しだけ、待ってほしい。
式神のアリスについて、一番わかっているのは俺だ...他の人には任せられない。
同じことを、繰り返したくないから」
詩の中には、母の顔が浮かんでいた。
検討を祈るよ、鳴海は最後にそう言って、電話をきった。
詩はよしっと、気合を入れなおすのだった。
そんな詩の様子を、2階の窓から見下ろす姿。
舞だった。
詩がふと上を見上げる。
カーテンは閉まっている。
気のせいか...そう思い、奏が来るのを待った。
舞は自分の部屋で、ベッドにうずくまる。
なんなんだろう、あの人は...
兄がいるのは知っていたけど、急に現れて、こっちだって気持ちの整理がつかないのに、
不思議な力...アリスを見せられて...
奏を連れていくと言い出して...
ママは悲しそうな顔をしてるし...
友だちはアリスは危険だって言ってた...
でも、さっきみたのは、そうは思えなかった。
それと...
ー君の声、すごくきれいだ
そう言ったやさしい眼差しが、忘れられなかった。
今日まで何回か、引っ越しをした。
変な勧誘、誘拐まがいのこともあった。
アリスであるということは、アリスを家族にもつということは、こんなにも...不自由なのか...
なんで、あの人は...
あんなに笑っていられるんだろう。
わからない、わからないよ....
あの人は、何者なの....?
.