兄弟
「へぇ...っ
その、アリスの学校には、僕以外にもこういう力を使える人が、たくさんいるんだね」
うんうん、と頷く詩。
詩はアリス学園について、奏にわかるように説明していた。
「そこで、みんなと一緒に勉強するんだ。
力の使い方も、先生たちが教えてくれる。
学園は安全で、奏の身を守ってくれる。
今までも、危ない目にあっただろ?」
うん、と奏は頷いた。
自分の能力について、一通りの理解はできたようだ。
ものわかりがよくてよかった、詩はひとつ不安を解消できて安堵していた。
しかし、奏は言う。
「どんなところかはわかったけど、僕は行かないよ」
え...?
当たり前のように言ってのける奏。
詩は今までの説明のどこがわるかったのかと、記憶を洗いなおす。
琴も、少し驚いている様子だった。
「だって僕がいなくなると、ママが悲しいから」
そう、母の瞳を見つめた。
「奏...」
母はつぶやく。
「僕、もうこの力は使わないって、約束する。
だからおうちにいるよ。
ランドセルだって買ってもらったんだ!
小学校で、いっぱい友だちつくるんだ」
純粋すぎる瞳に、詩は開いた口をしばらく閉じることができなかった。
奏は、小学校を本当に楽しみにしていた。
保育園や幼稚園に行けなかった分、何倍も...
「わるいひとたちだって、僕がやっつけるんだ!
ママやパパや、お姉ちゃんは、僕が守るんだ」
そう、まっすぐな瞳を向けられてしまっては、詩は何も言えなかった。
「奏が言ってるの。
あんたに奏は連れて行かせない!」
舞もまた、奏の前に立った。
詩はそんな妹と弟に、にっと笑った。
「そっか。
そうだよな」
案外簡単に引き下がるから、両親はどうしたものかと詩をみる。
しかし、詩はなんでか嬉しそうに笑っているのだった。
「よーしじゃあ兄ちゃんあそぼーっ」
奏はぴょんぴょん飛び跳ねる。
「そうだなっ」
同じように無邪気に笑う詩。
「何したい?」
「外であそびたいっ」
元気よく奏は言う。
「いい?」
と、両親にきく詩。
両親は顔を見合わせる。
「俺がついていれば、大丈夫だから」
やっぱり父と似ているな、と琴は思った。
琴は微笑んで頷いた。
珍しいな、舞は思った。
ママのあの顔、久しぶりに見た...
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