兄弟
「ねぇママ...
その人...僕の...お兄ちゃんなの?」
いつの間にか、リビングにいた奏。
ドアが開いたのにも気づかなかった。
ふいな出来事に、詩と両親は息をのんだ。
「ちょっと奏...!
勝手にでていかないで...っ」
「だって姉ちゃんが先にっ」
奏に続いて出てきた少女。
その少女と目が合い、詩は驚く。
少女も、はっとしていた。
あの時、河原で歌っていた子だ...
まさか...
「奏...舞...
いつから....っ」
琴は、どうすればいいのかと焦っているようだ。
「全部、きいていたのか?」
父が言った。
「途中から...」
小さな声で、長い黒髪の少女、舞は答えた。
そして、静かな瞳で母を見つめる。
「ママ、本当なの...?」
じっと見つめる瞳。
それがとても純粋で、誰も目を離せなかった。
「そうよ...
ここにいるのは、
舞、奏の兄...
詩よ」
途端に、奏はぱっと顔を輝かせる。
対照的に、舞は複雑な表情だった。
「ほんとにっ
ほんとにっ?!
僕の、お兄ちゃん?!」
そう言って詩に駆け寄る奏。
予想していなかった反応に、詩も言葉を忘れる。
「やったぁ!!
僕、お兄ちゃんほしかったんだ!!
ねぇ、じゃあこれから毎日あそんでくれる?
みんなで一緒に、暮らせるの?」
キラキラした瞳。
純粋なまなざし。
まぶしくて、思わず笑みがこぼれた。
だけど、伝えなければならない。
詩は、ただ家族と再会するために来たわけではなかった。
ここに来たもうひとつの理由。
高等部校長から命を受けた件について...
それは...
詩はしゃがんで、奏の目線に合わせた。
「奏...俺は母さんの言った通り、
お前の兄ちゃんだ。
...会えて、嬉しい。
でも、ここでは一緒に暮らせないんだ」
え...
表情が一気に曇る奏。
「俺は、奏を迎えに来た。
...アリス学園に、連れていくために」
兄の詩の目は、前髪に隠れてよく見えなかった。
でもたぶん、優しい目をしていた...と思う。
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