東雲 春
「ハルちゃんが村を出てから20年余り...
その死の知らせと共に、時さんは戻ってきた」
村の人は、詩にそう、しみじみと語る。
「ハルちゃんが亡くなったのは悲しかったけど、一番悲しかったのはトキさんだってわかるから...」
「でも、時さんが戻ってきてくれて、みんな嬉しかったのは本当だ」
そうだそうだ、とみんな頷く。
「詩くん、この村のみんなはね、時さんのことが...
式神のアリスのことが大好きなんだよ」
その言葉が、とても嬉しかった。
「そして、時さんが愛した孫の詩くんのことも、みんなかわいくてかわいくて仕方ないんだ」
「この村は狭いけど、その分みんなかぞくみたいなもんだ」
「またいつでも、帰っておいで」
時は、詩にかけがえのないものを残してくれた。
“帰る場所”
“あたたかいみんなの笑顔”
詩もまた、守っていきたいと思った。
誰も、式神のアリスを恐れない。
むしろ、好きと言ってくれた。
今まで、ないことだった。
心が、じんわりと温まるのがわかった。
無意識に、式神が詩のまわりをとんでいた。
みんな、久しぶりに見たな、とやさしく見つめていた。
嬉しかった。
時のことが、式神のアリスのことが、誇らしかった。
最後に詩は、時と春が過ごした村、今も眠る村を一望して、立ち去った。
また会いに来るよ、じじい...そして、ばあちゃん...
「...そう、あの村に行ったのね」
母は、村の話をきいて、穏やかな表情をしていた。
「なるべく母の命日には行くようにしているわ。
それと...父の命日も...」
詩は頷く。
今度は、一緒に行きたいと思った。
きっとじじい...喜ぶだろうな...
そう思って、詩の顔もほころぶ。
どんな時も、トキはハルとの約束を守っていた。
“必ず戻る”
“いつになっても待ってる”
ー待つのには慣れた
いつだったか、##NAME1##もそんなことを言っていた。
きっとハルにとって待ってる時間は、つらいものじゃなかった。
信頼してるからこそ、一番トキを理解していたからこそ、ずっとずっと待ち続けられたんだ。
トキだって、アリスなんか関係ない!と言い切ったハルが眩しく見えたに違いない。
トキにとっての希望であり、それが南雲十次とは違う道へと進ませた。
詩は今一度、琴に向き直る。
「受け取ってほしいものがある」
そう言って、机の上に出したもの。
深い藍色に光る石....
琴はまた、涙ぐむ。
「見たことあるわ...
母がいつも、肌身離さずもっていた...」
アリスストーンというのは、母からきいたことがあった。
能力の結晶のようなもので、トキの一部であり、お守りだと母はいっていた。
詩は頷く。
「じいちゃんの昔の相棒から、譲り受けたもの。
...母さんが、もっててほしい。
きっと、じいちゃんもそう願ってる」
「ありがとう...詩...」
琴は、大事に大事にその石を受け取り、その輝きをいつまでも見つめていた。
アリスがまた、家族を、絆をつないでくれた...
奇跡のような...必然ともいえるような、不思議な力だと、改めて感じた。
.