東雲 春
ハルはひとり、待っていた。
あの、いつもトキと別れる町はずれの道。
そこに座り、小さな身体を腕で抱えるようにして、待っていた。
あれから何時間経っただろう。
時間が、今まで感じた中で一番、長く感じた。
景色が夕陽色に染まる。
ザザッ...
ズザザ...
顔を膝にうずめていたから、その音だけが聞こえる。
足を引きずるようにして向かってくる音。
その人物は力尽きるように、ハルの隣に倒れこんだ。
そっと顔をあげるハル...
寝転んだその人と、目が合った。
ボロボロで、痛々しいその姿。
でも、いつものように笑うんだ。
「ほんとに待ってるし...
バカだな...」
「バカは、トキさんです....!
ずっと不安で、不安で仕方なくて....っ」
ハルの目から、我慢していた涙がこぼれ落ちる。
「やっぱりお前はバカだ」
ぽんぽん、と小さな頭をなでるトキ。
「戻るって言っただろ。
そりゃ、いつになっても待ってるとか言われたら...
戻るしかない」
「無茶、しすぎです...っ」
「はいはい、ごめんなさーい」
「もうっ!こっちは真剣に言って...っ
こんなことして...
死んじゃうかもしれないのに」
「ばーか、死なねえよ。
俺、強いし」
ははっと笑って言ってのけるその姿。
ボロボロなのに、なんでかその言葉は信用できた。
トキは、ヤクザの事務所にひとりで乗り込んでいた。
それだけでなく、組長の家にまで乗り込むやりよう。
トキ自身、久しぶりに暴れた感じだ。
十次の結界なしで、無茶したのは事実。
結果、大けがはしているものの、命はある。
ハルとの約束は守ることができたのだ。
そのあとハルは、気絶しそうなトキを抱え村に戻る。
そして献身的な看病をし、トキは回復。
お礼にハルの家の農業を手伝ったトキ。
ハルの家族や村の人たちに好かれ、居心地がよくなったトキは、そのままハルの家に居候をしていた。
しかしどんなに親しくなっても、トキは自分がアリスであることをハル以外には明かさなかった。
それでも、この村の暮らしがトキは好きだった。
しかしある時、トキのアリスが村中に知れ渡ることになる。
その日村は、避難指示がでるほどの豪雨に見舞われていた。
雷鳴がとどろき、止むことを知らない雨。
みんな、不安な夜を過ごしていた。
そして事態は最悪な状況に陥る。
「川が氾濫したぞ!!
みんな!!早く避難しろ!!」
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