東雲 時
あの後、トキの大工仲間が息を切らしてトキを呼び戻しに来た。
町の人たちが感謝してる、
お礼を言いたい、
誰もアリスを口外しない、
だからまた守ってほしい、
そう言われ、トキは一旦納得して、町へと戻った。
それからまた、何事もなかったようにハルは町に出てきたし、トキも大工の仕事を続けていた。
いつも通り野菜を買って、会話して、町はずれまでハルを送った。
町の人たちも、トキがアリスであることを言う人はいなかった。
しかしそんな平和が続くことはなく...
「トキ!!」
血相を変えてやってきた大工仲間。
休憩中、談笑していたトキはなんだ?と顔を向ける。
「ハルちゃん...っ
あの野菜売りの子が、前荒らしに来た男たちに襲われたって!!
どこかに連れてかれるのを見たって人が!!」
言い終わるなや否や、トキはもう走り出していた。
「お前...あのアリスと仲いいらしいじゃねえか」
ハルの顔は恐怖に歪む。
「よく見たらかわいくね?
組長のとこに連れてく前に、ヤっちゃおうぜ」
ハハハハと笑い声が起きる。
「おい、抑えろ」
いや!!と声をあげると、強い力で口を塞がれ、羽交い絞めにされる。
抵抗しても、身動きがとれなかった。
「いいねえ...その目...」
雄の顔になった男はじっとりと、値踏みするようにハルを見つめ、その服に手をかける。
恐怖と嫌悪感が入り混じり、悲鳴をあげたくても、声にならないくぐもったうめき声しかでない。
助けて...
助けて...トキ...っ
ザシュッ
あの時みたものと同じもの...
白いもの...式神が舞った。
「汚ねえ手でさわんな!!」
トキの声と共に、男たちは血しぶきをあげ、うずくまる。
「お前らそんなに俺に殺されたいか...」
トキの冷徹な瞳。
しかし、ハルを見つめる目は、優しかった。
「ごめん、遅くなった」
震えるハルを、抱きしめるトキ。
しかしはっと、すぐにトキは男たちのほうを振り向く。
ひとりが、勝ち誇ったような笑みを浮かべ、あるものを見せつけるようにもっていた。
「これがあれば、お前らアリスは何も怖くねえ」
その手に光る石...気配ですぐにわかった。
結界のアリスストーン...
しかし、それは普通のアリスの話だった。
トキにはそれが逆の意味をもつことを、男たちは知らなかった。
ぶわっと、さっきよりも増した式神の量にぞっとする男たち。
「ハルちゃん...先に戻ってて...
俺は、こいつらと話がある....
...そんな脅しなくても、俺のほうから出向いてやる、お前たちの組に」
トキの目が、あの時と同じだった。
「だめ!トキさん!!
行っちゃダメ!!」
必死の思いで抱きつくハル。
でも、振り返ったトキはやっぱりやさしい顔で言う。
「必ず戻るから...
待ってて」
そう言って、笑った。
.