東雲 時
やっちゃったな...
トキは自嘲しながら歩く。
もう、あそこにはいられない...
また引っ越しか...
ハルちゃん、かわいかったなぁ...
彼女のことを思い出して、寂しくなった。
しかし、はっとする。
ぱたぱたぱたっ...
聞きなれた、足音。
でも、今日は振り向かないと決めた。
いつもより早足で歩を進める。
「トキさん!トキさん!!待って!!」
そんな声も、聞こえないふりをした。
しかし、ズザザザッ後ろで派手に転ぶ音。
唇を噛んで、立ち止まった。
「ついてくるな...」
「なんで...なんでですかっ」
「聞かなくてもわかるだろそれくらい...」
「...お...お釣りがまだです...!!
お釣りをもらってください!!」
彼女の必死の涙声。
ふっと、笑ってしまった。
観念したトキ。
ゆっくりと近づいて、手を差し伸べる。
はっと顔をあげ、起き上がるハル。
「ケガしてる...大丈夫?」
「だっだいじょうぶです!!
それより...!!」
「お釣りはいらない。
あげるよ全部」
トキのやさしい瞳。
ハルの目に、涙が浮かぶ。
「そんなことが言いたかったんじゃない
...私は、嫌です。
トキさんが...どこかに行ってしまうのが...」
その言葉に、困ったように笑うトキ。
「俺は、アリスなんだ...
ハルちゃんも、俺と仲良くしてたらまわりになんて言われるか。
今までも、アリスってバレたらそのたびに町を転々としてる...
アリスをずっと隠すなんて無理な話。
遅かれ早かれ、こうなってたんだ」
諦めたようなトキの顔。
しかし、対照的にハルの目はとても強いものだった。
「アリスが...アリスがなんだっていうんですか...
トキさんはトキさんです。
私は、トキさんがアリスだとしても、そうじゃなくても、関係ないです。
だって....好きになってしまったから...」
言って、はっとするハル。
勢いで言ってしまって、顔が赤くなる。
「もう...なんでそう、まっすぐなんだよ...
ハルちゃんは....」
ふぅ、と息を吐くトキ。
「ダメ、ですか?」
涙目の上目遣い。
意識してやってるんじゃないだろうけど...
反則だと思った。
ばっと、トキはハルのその、小さな身体を抱きしめた。
「俺も、好きだ...」
「いなくならないって、約束してください」
「それは...わからない」
「じゃあ、いつになってもいいです。
戻ってきてくれるって、約束してください。
私、待ってますから」
「勝手に待つなよ」
「嫌です...待ってます」
.