東雲 時
それは、一瞬のできごとだった。
白い人型の紙のようなものがあたりを無数に舞い、目で追うよりも速いスピードで男たちを攻撃していた。
銃を持っていた男の手は血に染まり、衝撃で放り投げた銃を詩がキャッチする。
「銃口を向けたんだ。
同じように向けられる覚悟はあるんだろうな?
そんな覚悟もねえ奴がもっていいもんじゃねえ」
トキはそう言って、今度は男の頭に銃口を向けた。
「てめぇ...アリスか...っ」
「...だったら、なんだ」
「化け物が!!
きもちわりい能力もちやがって!!
ただの殺人兵器が身分偽って町うろついてるとはな...」
吐き捨てるように言う男。
「挑発したつもりか?
どうした、身体が震えてるぞ?」
感情のこもらない、冷たい言葉。
「お前をヤるのに、銃なんていらない」
トキはバラバラと弾丸を地面に落とし、銃を放る。
そして、尻もちをついた男に馬乗りになる。
トキの手には、鋭い式神があり、男の首元へと向けられていた。
「どうだ?
お前がきもちわるいといった、化け物の能力にやられる気分は?」
冷たく、トキは笑った。
男は恐怖で青ざめる。
「動くなっ!!」
他の男が動こうとしたところに、他の式神が刃物のように鋭く向けられる。
「死にたくなかったら、お前らもう、ここに顔見せるんじゃねえ。
わかったな...?」
蛇に睨まれた蛙とはこのこと。
男は冷汗を垂らしながらなんとか頷いた。
「失せろ...」
その言葉と同時に、詩は力を抜く。
男たちは、バタバタと走り去っていった。
見ていた人たちも、息をするのを忘れていた。
トキはすっとハルの方を向く。
ケガをしていないことに安堵して、しゃがむ。
そして、踏みつけられたトマトを手に取って食べる。
「うまいよ」
にっと笑って、お金をハルににぎらせた。
そして、その場を立ち去った。
ハルはとっさに思った。
この人、どこかに行ってしまう...
そんな目をしていた。
.