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東雲 時



「トキさんは、力持ちですね。

いつも、ありがとうございます」

ハルはにこっと、笑った。

「どうってことねーよ」

トキは、赤い顔を隠しながら先へ行く。

「あっ待ってください!」

その後ろを、ハルはぱたぱたと追いかけていった。

ハルが帰る時、トキは決まって町のはずれまで重い荷物をもってあげていた。

そして、「気をつけろよ」と言って笑顔で見送る。

見えなくなるまで、手を振っていた。






そんなある日だった。

トキはいつものように、ハルのところに野菜を買いに向かっていた。

そこは、いろいろな人が路地に店を広げ、商売をしているような場所。

ハルも、その一角に小さな身を置き、必死に大きな声を出して野菜を売っていた。

そんな路地が、今日は少しばかり雰囲気が違った。

騒ぎになっているようで、人がまばらに集まっていた。

異変に気づいたトキは駆け寄る。





「おい!!

てめぇらここ、誰の許可とって営業してんだ?!」

ガシャン!!

即席の店を勢いよく蹴り上げ、怒声を浴びせる男たち。

最近噂になっていた。

ヤクザだった。

5人組は、凄みをきかせ、恐怖で何も言えない店主たちの店を次々と壊していく。

「すみません!!

やめてください!!やめてください!!」

駄菓子売りは、頭を下げるも、無慈悲に破壊する彼ら。

そして、それはハルにも向かっていた。

「こんなまずそうな野菜広げてんじゃねーよ!!」

ガシャンッ

きゃあ!とハルの声が響く。

「どうせ腐ってんだろー?」

男たちはその野菜を足蹴に、踏みつぶしていた。

ハルは目に涙をため、声にならない声で、やめて...とつぶやく。







「おいトキ!

やめろ....手はだすな!」

大工仲間の制止する声は、トキにはもう届いていなかった。





ハルの前に立ちふさがるトキ。

「トキさん...」

トキの様子がいつもと違った。

みたことがなかった...こんなに怒っているトキを...





「ああ?

なんだてめぇ。

俺たちに盾突く気か?

そんなことして、ただで済むと思うなよ」

しかし、トキの目はゆるぎない。

「てめぇなんとかいえこのやろ!」

勢いよく殴りかかってきた男の腕を、軽くつかんでひねり上げるトキ。

「あいたっ....いたたたっ」

そんな男を、ばっと投げ飛ばすように離す。

「てめぇ!!」

他の男が飛び掛かろうとする。

しかし、そのトキの瞳があまりにも冷たくて、一瞬ひるむ。

こいつは、やる奴だ...

この道を生きてきた嗅覚がそう判断していた。

「失せろ」

トキの低い声。

しかし、食い下がる男たちではなかった。





カチャッ




リーダーらしき男が、トキの頭へまっすぐと銃口を向けた。

「失せるのはお前だ。

ちょうどいい見せしめにしてやる。

俺たちに反抗したら、こうなるとな...」

周囲から悲鳴があがり、一斉にみんな離れていく。




パァンッ




乾いた銃声が空に響く。

男が空に向けて発砲していた。

「うるせえ!!

動くんじゃねえ!!

バカな男の死に際だ。

みんな見ていけ」





トキは、変わらぬ表情。

息を小さく吐いた途端、白い、式神が舞った______








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