赤髪の転入生
「ははははっ
まじかよそれ、
朝からほんと、災難だったな」
教室に響く笑い声。
ここは、能力別クラスの特別能力系の教室らしい。
響く笑い声は詩と同い年、そして今、友だちと紹介された殿内明だった。
「ほんと、詩が世話役ってのが一番の災難。
あ、俺のことは殿でいいよーみんなそう呼んでる。
詩とはまあ、友だちっつーか悪友?」
よろしく、とあいさつを交わすも、翔はもうへとへとだった。
今日一日中、詩に振り回され、最後にたどりついたのがこの、通称特力の教室だった。
詩お気に入りの場所らしく、最も気の置けない仲間が集まる場所。
といって、詩自身確かにリラックスしていた。
言うだけあって、今日まわった学園内のどの場所よりもやっと落ち着けた気がする。
「俺と一緒が災難なんて、殿、ひでーこというなあ」
詩は納得いっていないらしいが、翔自身今日一日で、この東雲詩という人間がこの学園でどれだけ特異な存在で、注目の的で、奇しくも人気者だということがわかった。
「そりゃあいくらなんでも俺は翔に同情するよ。
歩くだけで新聞部のスクープの的になるお前なんかと1日中行動共にすれば、誰だって疲れる。
この俺でもなあ」
うんうん、と特力のみんな頷いていた。
「えーみんなそんなこと思ってたのーっ」
心外だと言わんばかりの詩。
「まあでも、朝は静音姉さんが助けてくれたからよかったよ」
「へぇーあの静音さんが、めずらしっ」
殿は禁止されてるはずの煙草に火をつけながら、早くも興味がなさそうだった。
そして、2人は朝のことを思い出していた。
いつにも増してざわつく高等部寮。
ーパチンッ
指のスナップ音が鳴り響いたと思うと、そのざわつきが一瞬にして静まる。
「朝から何事?
みんな、早く教室へ向かわないと、授業が始まります」
その一言で、皆、なぜか統率のとれた兵士のようにぞろぞろといなくなっていった。
残された2人。
内心詩は、翔にくっついていてよかったーと思っていた。
翔の結界のおかげで、静音のアリスの影響は受けなかったのだ。
人だかりがなくなった廊下には、静音と詩と翔の3人。
「ね、姉さんひさしぶりー」
そっと声をかけるもきりっと睨まれ背筋が伸びる詩。
志貴に睨まれてもそうでもなかったのに...
相変わらず、詩の恐れる基準がわからなかった。
「ほんとに、あなたが帰ってくると騒ぎしか起きない。
あと半年で卒業なのよ。
少しは平穏に過ごしなさい」
ぴしっといわれ、メガネの奥の瞳は冗談じゃなく怖かった。
「起こしたくて起こしてんじゃないし、第一これはこいつが!」
びしっと指さされて驚く翔。
普通、ここでなすりつけるか?
仮にも今日から転入するというのに。
そんな詩に、あきれることしかない。
「騒がしくてごめんなさいね、私は山之内静音。
音色のアリスよ」
手を差し出され、やっとまともなあいさつができる。
「南雲 翔。
結界のアリスです。
あと、風も少しあやつれます」
「姫様の血縁という噂は届いてるわ」
姫さま?
と思っていると、横で詩から「元中等部校長の姫宮!」と補足が入る。
ああ、昨日志貴からきいたな、と思い出し頷く。
「姫様もあなたと会うのを楽しみにしていらっしゃるわ。
花姫殿で会ったら、どうぞよろしく」
静音はそれだけ言って、行ってしまった。
静音が去る後ろ姿、詩はひそひそ声で言う。
「あいつ、規律には厳しくてこえーから気をつけろよっ」
なるほどな、と納得する。
その音色でなんでも操れてしまうアリスか。
非常に珍しく、使い方次第で....
そしてあの佇まい...
詩が一目置く理由が分かった気がした。
.