赤髪の転入生
「つうかそれ、いつまで着てんだよ」
高等部校長室をあとにし、詩が寮へと案内してくれる道中、そう彼は言う。
言われて、詩と自分の恰好の違いを改めて見直す。
詩は、この学園の制服を着用し、ムカつくけどちゃんと着こなして似合っていた。
着崩した感じも、ブラウンのネクタイも、山にいた時とは少し違った印象にみえた。
これが、学生...
伝え聞くくらいの情報しかなかったから、少し感動している自分がいた。
自分はといえば、南雲家に代々伝わる狩衣といわれる、朱色のラインが入った白装束姿。
山の中では着物を着ている子たちも多かったし、道場での稽古もあったから違和感はなかったけど....
「お前、浮いてんぞ」
デリカシーもなく、詩は言ってのける。
「んなの俺だってわかってるよ!!
でも生まれてこの方、こういうのしか着たことないから仕方ないだろ!!」
ムキになっていい返す。
「ええまじかよっ」
本気で驚き、時代遅れーと失礼なことを言う詩は、もうこの際無視することにする。
「ま、明日の朝までには制服届くらしいし、それ以外で必要なものあったらなんか言えよ。
貸してやるし、使わないものならあげるよ」
「あ、ありがとう...」
仕方ない、ここは山と違って詩のホーム。
今頼れるのは、詩しかいないのは事実だった。
「どーってことないよ!」
詩はそう言って、肩に腕をまわしてくる。
本当に、人懐っこくて、憎めないやつだ....
そしてちょっとだけ、心強い...
そうやって、詩にじゃれられながら歩く中、あっと言って、ひとつ思い出す。
「詩、お前さっき志貴さんが言ってたけど...
1週間前に連絡してたって、どういうことだよ」
さっきは、校長たちのいる手前、深く掘り下げなかったが、ひっかかったのだ。
急に詩についていくとは言ったものの、こんなに早く編入が決まるなんて翔ですら予想しなかったこと。
今朝、山の上でその旨を詩に伝えたばかりなのだ。
「あ、やっぱバレちゃった?」
悪戯っぽく詩が言って、予想は確信に変わる。
「おまえ、最初からそのつもりで!?」
まーなっと、なんでもないかのように言う詩。
あっけにとられて、出た言葉。
「だとしたらおまえ、めちゃくちゃ変だぞ!!!」
びしっと指をさされ言われた詩。
これには心外だったようす。
「変ってそんな恰好してるおまえがいうなーっ
第一、実際お前は学園に来た!
俺が志貴さんに頼まなきゃお前はこんなに早くこれてないんだからなっ
感謝してほしいくらい!」
負けじと言い返す詩に、あきれることしかできない。
「お前、俺が行かない可能性だってあっただろ。
そんな勝手に...っ」
「お前は来たいって言ってた!!」
「は?誰が言ったかよ!!
言ってねーよ一言も!!」
「言ってた!!目が言ってた!!」
「はぁ?」
もう話にならない、そう、根負けした。
「俺は、お前を学園に招待したかった。
お前と、もっと過ごしたかった。
仲間を、紹介したかった。
それ以外に、理由いる?!」
詩は、仏頂面だった。
自分が、いつ、行きたいと...そんな目をしただろうか...
確かに気にはなっていたけど....
決心がついたのは、ぎりぎりだった。
そんなことまで、お前は、見越していたのだろうか...
でも、今になっていつだか十次の言っていた言葉がよみがえる。
ー翔...東雲をコントロールしようなんて、間違っても思うな。
主導権はいつだってそちら側だ。
わしらは、動かされる側の人間。
そのレールにのると決めた瞬間から、東雲にはかなわんよ....
詩が導いてくれた新しい世界。
これは、必然か、偶然か、運命か、奇跡か...
はたまた、神様のいたずらか...
もう、なんでもいい。
俺は、自分でも思っていた以上に、こいつと、こいつのアリスに惹かれてしまったらしい。
なぁ詩、いつからお前はこの未来を想像していた?____
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