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向かう場所



噂にはきいていたアリス村。

政府との関りを拒絶し、戦争で迫害されたアリスのみを集め、山に籠った集団。

南雲家の強大な結界の守りを前に、何人たりとも近づくことを許されないときいた。

確かに、南雲家のアリスであればそれは可能だとトキも頷けた。





「お前は、逃げたというかもしれないが...

俺には、この選択肢しかなかった」

「逃げたなんて、言わないよ」

静かなトキの瞳。

「それが十次のやり方なら、正義なら、俺は何も言わないさ」

「じゃあ...!!

お前も、お前たちも来いよ、アリス村...!」

十次は期待の目を向ける。

「お前がくれば、守りは完璧になる。

また、俺たち一緒に戦える。

もうすぐ1年経つ。

完璧な要塞に近づいてる」

だけど、そのトキの目をみてすぐに悟った。

ああ、こいつは来ないだろうなって。

ずっと一緒にいたんだ。

嫌でもわかってしまう。

言葉より先に、その仕草、雰囲気、瞳で、なにもかも....わかるんだ。





「ごめん、十次...

俺は行けない」




「なんでだよ...っ」

掴みかかるようにトキの腕をつかむ。

そこで、はっと気づく。

こいつ...瘦せた...?

いや、訓練をしていないのか...

こいつはもう....




「十次、何から守るの...?

俺たちは、何と戦うの...?

もう、敵はいないんだ」





こいつにもう、戦う意思なんてない。

それが、わかった。

でも、それでもあきらめきれなかった。






「何って、俺たちを傷つけるすべてからだよ!

俺たちを傷つけるすべてから、仲間を守るんだよ!!」






「十次、アリスでも、アリスじゃなくても...

南雲家でも、東雲家でなくても...

もう、みんな敵じゃないんだ」

「何言ってんだよ、お前...

あいつらが、あいつらが俺たちにしたこと、俺たちの仲間にしたこと忘れたのかよ!!」

十次は、トキに掴みかかる。

「忘れないよ。

忘れたことなんてない!!」

トキも、声が大きくなる。

「じゃあ、なんで!!」

「憎しみは、憎しみを生むだけなんだ。

復讐の連鎖は、どこかで断ち切らないと...

また同じことが繰り返される。

綺麗事と思われるかもしれないけどっ」

トキの言葉を待たずに、十次はさえぎる。

「ああ、きれいごとだよ!

お前の言っていることは、きれいごとだ!

じゃあ秋は、秋の死をお前は納得できんのかよ!!」

一瞬、秋の名前を出したことによって、トキが少しひるんだのがわかった。

そして、十次自身、そうなるとわかっていて言った。

ああ、俺は最低だ。

こんなこと、言うつもりなかったのに....





「秋の死に、納得できたことなんて一度もない」

ああ、こいつにまたこんな顔をさせてしまった。

こんな顔、させたくなんかないのに。

「でも、俺はあきらめないよ。

未来が明るいってこと、信じ続ける。

誰も、何にも怯えない世界を。

アリスがあるから特別なんじゃない。

この世に生まれてきたこと自体が特別なんだ。

命の重さは、みんな同じ。

アリスがあるとかないとか、関係ない」

ほら、またこうだ。

こうやって、すべて正しいかのように言ってのける。

でも、俺には無理だ...






ただ、最後に言えること。

伝えたかったこと。





「トキ、俺は待ってるから」





「うん」





そう、頷いた瞳でわかってしまう。

薄いグレーの瞳。

やさしいけど、決意のつまった瞳。

こいつが俺の元に来る気がないなんてこと。

なんで、俺は素直に、お前と一緒にいたいと言えなかったのだろう...





最後に、トキは振り返った。

「十次のやり方、間違ってない。

でも、俺にも、俺のやり方がある。

お互い、守りたいもののために....

これからは、違う道になると思うけど...




俺は十次と一緒に過ごした日々を忘れないよ。

それが、俺をここまで強くした。

あの時、俺を連れ戻してくれてありがとう。

守ってくれて、ありがとう。

今ここにいるのは、十次のおかげだ」





何の偽りもない、くったくのない笑顔。

なんで、こんな時まで、そんな顔ができるんだよ....

お前は...っ





「じゃあね、十次」





最後にみたトキは笑っていた。

でも、俺はどうだろうか、きっとひどい顔していただろうな....




やっぱり、俺と時は違う。

別々の道を歩むと決心した日だった____






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