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向かう場所



あいつらは、もうついている頃か...





暗くなり、星が瞬く夜。

十次は空を見上げていた。





「降りてくるなんて珍しいですね、南雲様....」

いつの間に、隣にはアサがいた。

でも驚きはしない。

山のふもと。

村の家々からは離れた一軒家。

山に一番近いアサの家の外は、とても見晴らしがいい。





「たまには、下からの景色もみたくなってな」

十次は、珍しく面をつけていなかった。

アサもその顔は、久しぶりにみる。

「寂しいのですね...」

「...」

沈黙のあと、十次は笑った気がした。

「アサには、嘘をついても無駄か...」

「...すみません。

アリスの性ゆえ」

「別に構わない...

...あいつなら、そういうだろうな」

十次の言っている人物がわかって、アサは頷く。

「久しぶりに思い出しました、あの時代を...」

「わしもだ」

静かに頷く十次。

「どうだった、詩は...」

「ええ。

本当に、あの方に似てらした。

...あの、耐え忍ぶだけの苦しい日々、明日の命もわからぬ時代。

でも苦しいことばかりではなかったと、確かに希望はあったと、思い出させてくれました」






ーアサちゃん!

ーこの土地は俺たちが守るからな!

ー今日は給料でたからみんなにこれを買ってきた!

ー安心して眠れるように、お腹いっぱい、ご飯が食べられるように...






自分には想像に及ばぬ戦禍をくぐりぬけても、みんなの前に現れるトキは、いつでも明るく元気で、まさに太陽のような存在だった。

そして誰よりも強かったから...

そんなトキがいたから、日本が負けるなんて、思いもしなかった。

もう、会えなくなるなんて、考えもしなかった。





アサは、南雲との縁もあり、こうしてアリス村に移住することで、貧しい時代を生き延びることができていた。

ここにいる皆、南雲家のおかげで、十次のおかげで、こうして平和な生活を送れている。

アリスが戦犯として冷ややかな目で見られた時代も、守ってくれたのは南雲家であり、この強大な結界だった。

これは何にもかえがたい、感謝すべきことだった。




「平和な世の中になりましたね。

私がこうして長生きできるのも、南雲様のおかげです」





「...感謝など、されるためにしたのではない。

今でも、この選択が正しかったのか、分からなくなることがあるからな...」





アサにも、十次にも長年心残りがあった。

それは、トキという存在。

戦争が終わっても、みんなで暮らすことはかなわなかったのか。

どこかにその選択肢は、なかったのか...

なぜ一度も、この地に来てくれなかったのか...

そうは言っても、十次もトキに最後の最後まで会いに行くことはなかった。

2人の長い意地の張り合いにも見えたが、離れていても信頼関係、強い絆はあったのだとアサは感じていた。

十次なら大丈夫。

時なら大丈夫。

お互いが、お互いの強さを認め合っていたからこそだった。





そして、その絆の強さを証明するかのように現れた詩という存在。

トキがつないだ命____







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