向かう場所
ハァっ、ハァ、ハァ____
翔と詩。
2人は山のふもと、膝に手をつき息を整える。
「つか、お前のじいちゃん化け物かよ。
あれ、ほんとに俺ら殺されるとこだったぜ?!」
「うるさいなっ
お前が最後煽るからだろ?!」
「いや誰も見送りであんな追いかけまわされると思わねーだろ?
ハァ...俺が期待してたのはもっとこう、感動的なやつで....」
「っはぁ、はぁ、わかってねぇな。
じじいはああゆうやつなんだよ。
手加減っての知らないから....」
「ほんとまじ、山の下山速度今までの修行で最速じゃね?」
「っかもな」
そう言って、お互い満身創痍な姿をみて、どちらからともなく笑い合った。
ここからまた、新たな道が始まるのだと思うと、ワクワクと...少しの不安があった。
でも、お互い隣にいる相棒をみて、すぐにその不安は吹き飛ぶ。
俺らなら大丈夫。
そういう自信があった。
翔と詩を追い回した十次。
山の中腹まできたところで、足をとめて2人の背中が小さくなるまで見送った。
トキ、お前は最後までこの山にくることはなかったな。
詩がここに来た時、お前が現れたと一瞬、本当にそう思った。
それくらいに、時と詩は似ていた。
雰囲気や笑い方、少しだけつめの甘いところまでも...
そしてとても、その式神が懐かしかった。
式神のアリスが嫌いなんて、本心なわけがない。
でも、無性に、お前たちを食いつぶすその式神が憎くてたまらない時がある。
お前たちが、何を悪いことをしたというのだ。
なぜ、お前たちのような善人が、その運命を背負い、苦しみ、意に反してその手を汚さなければならないのか...傍で見続けたからこそ、納得できなかった。
でもその運命がなければ、こうも東雲家と南雲家の絆は強くならなかったと思う。
東雲家のその人外で強大な力を唯一支えられるのは南雲家。
わしは、お前たちが思っている以上に、時、秋、そして詩に出会えたことに感謝している。
わしの人生を照らしてくれた光には変わりないのだから。
後生短いこの命。
またあの時の気持ちを思い出させてくれてありがとう。
ありがとう、詩...
ここまで来てくれて、ありがとう____
そして、孫の翔をよろしく頼む。
いつしかの自分たちに、2人を重ねられずにはいられなかった。
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