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いってきます



「黒峰、ありがとう」




みんな落ち着いたところで、少し離れて黒峰と話す。

黒峰の後ろには、紅蘭もいた。




「私のことは何も気にしないで。

こうなるだろうなって、少しは予想してた。

それに...こうなってほしいとも思ってた」

「え...」

「南雲様と東雲さんをみていると、なんだかとても安心するの。

理由はわからないけど。

私なんかより全然一緒に過ごしていないはずなのに、お互いのことをとても分かり合っているような...

ちょっと悔しい。

でも、2人は一緒にいるべきな気がして。

...あの、不安定な獣...といっては失礼かしら...

野生の動物のような彼を...ひとりきりにしてはいけない気がする...

そしてそれができるのは、南雲様しかいない気がするの...

ただの、勘だけど...」

そっと黒峰が見る方向でみんなと遊ぶ詩。

まったく、精神年齢いくつだよとつっこみたくなるくったくのなさ。

でも、黒峰が言っている意味はなんとなく理解できた。

あの時、てまりや、みんなを野生の狼から救ったあの日のことを思い出す。

確かに、初めてと言えるほど強大なアリスに触れた感覚。

平静を装ってはいたけど、内心、震えていた。

こんな感覚初めてだったとともに、何かがつながった気がした。

感覚の話でしかないのだけれど.....




黒峰は、ふっと紅蘭のほうを向く。

明らかに、いつもより元気のない紅蘭。

翔はとん、と紅蘭の肩に手を置く。

「紅蘭、道場は任せた。

この山も、みんなのことも...」

そこでぱっと翔を見上げた紅蘭の目には涙が溜まっていた。

久しぶりに紅蘭のこんな姿をみる。

「わっ私は自信がありませんっ

寧々さんも、みんなもああいってるけど....

私は...私は南雲様がいないと....っ」

「紅蘭」

さっと、翔は地面に片膝をついて目線を紅蘭に合わせる。

驚く紅蘭は慌てて言う。

「おっお着物が汚れてしまいます、南雲様!」

「いいんだ、紅蘭。

俺の、目を見て」

そう、静かに言われ翔の目をしっかりと見る。

その瞳は、道場で手合わせした時対峙する目。

この時ばかりは、あの憧れの翔の瞳は私だけに向けられる。

そのスイッチが紅蘭にも入り、揺れていた瞳がぴたりと翔を捉える。

その瞳を逃さぬよう。

「うん、いい目だ」

そう言った翔の目は今まで向けた中で一番やさしいものだった。

思いがけないことに、ほっとして、なんだか気が抜けてしまう。

南雲様って、こんな顔、するんだ....

「紅蘭は、俺の一番弟子だ。

自慢のね」

はっとした。

これ以上にない、嬉しい言葉だった。

私、南雲様に認められた?

「もう一度言うよ。

紅蘭、道場は任せた。

黒峰と一緒に、頼むよ」

うん、と頷くのに精一杯の紅蘭に、翔は満足そうに頷く。

「君は強い。

俺が教えたんだから、自信もってもらわないと困る」

「はっはい!」

やっと出た、精一杯の一言。

「いい返事だ。

俺も、安心して任せられる。

よろしく」

ぽんっと、今度は軽く紅蘭の頭をなでる翔。

紅蘭の頬は、ぱっと赤くなる。

こんな顔、南雲様に見られたら恥ずかしい。

そう思っていたけれど、もう、南雲様は背を向け、その場を去っていった。

大きくて、遠い遠い背中。

また、もっと手の届かない場所へ行ってしまうと思うと、悲しくなった。

だけど、違った。

南雲様はずっとそばで見てくれていた。

あの、アリス村に捨てられたあの日からずっと。





いつか必ず、追い付いてみせる。

今はまだ、追いかけるばかりだけど。

私だっていつか、南雲様を支えたい。

誰よりも近くで...




私の家族であり、師匠であり、仲間であり、




初恋の人...





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