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いってきます






ぎゃーーーーーっ




というほうが近いか、みんなの声が境内に響き渡る。




「南雲様?!

なんで?!」

「南雲様!!

きいてないよ!!!」

「南雲様がいなくなったらここは....っ」

「う、うそだよね?」

「なんかの冗談?!」





ざわつくみんな。

無理もない。

この山でゆるぎない、南雲十次の次に信頼がおけ、強く安心させてくれた存在。

それが今、翔の言葉どおり受け取ると...

ここを去る...

ということ。






翔はすっとみんなに向き直る。

その、言葉を待つように静まるみんな。

みんなの目が吸い付くように翔に向かう。

翔は息を吸い、堂々と言う。

「皆に、言うのが急になってしまったことはこのとおり、謝りたい」

そう言って、翔は、深く丁寧にお辞儀した。

武道を始める前の礼よりも深く、長く、相手に敬意を払うものだった。

それが、みんなに本気だと伝わる。





「え、本気なの....」

「そんな....」

「南雲様がいなくなったらここは...」





「南雲様、顔をあげて。

南雲家の次期当主がそんなに頭を下げるなんて、示しがつかない」

ざわつきを制するようにそう言ったのは、黒峰だった。

「寧々さん...」

少なからずショックを受けている紅蘭は、その凛々しい顔つきをみて、つぶやく。

翔はゆっくりと顔をあげて、黒峰をみる。







「まさか、もう戻ってこないとか、そんなこと、ないんでしょ?」

黒峰の問いに、翔は頷く。

「この山や村、みんなを捨てるわけじゃない。

俺は...生まれてからずっと、この山で過ごしてきた。

みんなと同じように。

...俺は、ここにいる詩と出会わなければ、おそらく、ずっと外の世界を知らずに生きていただろう。

でも、今は違う。

詩が、ここにいる。

ここに、飛び込んできてくれた。

この山以外の世界を教えてくれたんだ。

俺は、じじぃ...じいちゃんの築き上げてきたこの環境を守るために、もっと強くなりたい。

みんなを、守れるくらいに...」

翔は、みんな、ひとりひとりを見渡した。

「勝手な決断に思えるかもしれないけど、どうか、許してほしい。

最後まで、悩んだんだ。

ここを、少しでも離れることを...

...でも、今度は俺が詩のように飛び込んでいきたいんだ。

必ず、もっと強くなって、いろんな景色をみて、戻ってくる。

ここは確かに安全だ...

だけど、家族と離れ離れで暮らさなければならないこと、アリスだからといって命を脅かされる危険...

これには、ちゃんと向き合ってどうにかしないといけないと思ってる。

アリスとして生まれてきた人生を、胸を張っていきられるように....

みんなが、今以上に我慢せず、家族とともに過ごす当たり前の日常のために、俺も、俺なりに考えたい」






ー南雲様が、そこまで考えてくれていたなんて...

ー確かに、アリスじゃなかったら父ちゃん母ちゃんと毎日一緒にいられたのになって、考えることあったなあ...

ー私は自分のアリスがすき...

ーでも、命が狙われるのは怖い...

ー大きくなって、子どもを産んだら、その子も寂しい思いをするのかな...

ー南雲様が守ってくれているのは本当にありがたいことなんだけど...





皆がそれぞれ、翔の思いを受け取り始める。

しかし紅蘭は、ぐっと唇を噛んで下を向いていた。





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