いってきます
あれから5日後。
その日はやってきた。
十次と翔に学園に戻ると伝えた次の日、詩は山の子どもたち皆に、学園に戻ることを伝えた。
最初は皆、寂しがって、急なことにショックを受けて泣きだす子たちもいた。
しかし、詩を笑顔で送り出そうという黒峰の声を中心に、皆、詩との別れを前向きに考えようとしてくれた。
詩もそれに応え、最後の日まで、少しでも長くみんなといようと、たくさん、たくさんみんなと遊び、山を駆け回った。
修行中はほぼ南雲邸で食べていたごはんも、最後の日まではみんなと食べることに決め、みんなでわいわい食事を共にした。
寝泊まりした寮も、みんなと一緒になってぴかぴかに掃除をした。
道場にいって、みんなと最後の一本をやった。
もちろん、黒峰や紅蘭とも。
そして最終日の夜は、いつぶりか、ユウヒと同じベッドで寝た。
「なぁ、詩兄ちゃん。
また、会えるよな」
「ああ、もちろん」
「また、会いに来てくれる?」
「当たり前だ」
「また、一緒に遊んでくれる?」
「おう、鬼ごっこ、強くなっとけよ」
嬉しそうに、ユウヒは笑う。
「じゃあ、僕も、詩兄ちゃんに会いに行っていい?」
「おお、それめっちゃ嬉しいな」
「ほんとに?」
「ああ。俺が嘘つくと思うか?」
「ううん」
ユウヒは満足げに首をふる。
「詩兄ちゃんは今まで会った誰よりも、おひさまみたいなにおいがする。
こんなの、はじめて。
一緒にいて、心地がいいんだぁ」
おひさまか...
ずっと暗いところを歩いていたはずだったのに、そんなこと、言われる資格ないのにな....
そう思ったけど、ユウヒのその言葉が、とても嬉しくて。
わしゃわしゃっとくせっけのユウヒの頭をなでた。
「ちょっ
詩兄ちゃんやめてってば」
「ん、やめねえよー」
そう、2人は眠りにつくまでたくさんじゃれて、たくさん話をしていた。
ユウヒが疲れて寝ると、その寝顔を見て安心する。
こうやって、ユウヒをはじめとしたここにいるみんなが安心して眠れる夜。
何も怖いものはなくて、何にも縛られることなく、理不尽な力に押さえつけられることもなく、すくすくと育ち大人になっていく環境。
明るい明日があると信じて疑わない未来。
俺が目指す学園はまさにこれだ。
環境は違えど、こうやって、みんなの笑顔が絶えない場所にしたい。
それを可能にした十次はやっぱりすごい。
そうして、それを守りつなごうとする翔も...
この山に来て、アリス村に来て、南雲家に会えて、みんなの笑顔とたゆまぬ修練を見ることができて、ほんとうによかった。
自分も、探し物...
目的に一歩近づけた。
たった一歩に過ぎないのだけど、それは大きな一歩であることに違いない。
じじい、やっと少し近づけた。
じじいの守りたかったものがわかったよ。
俺が生まれてきたこと、このアリスを授かったこと...
先生が、諦めずに伝え続けてくれたこと____
ずっしりと感じる。
この体の中に感じる、東雲 時のアリス。
命って、こんなに重いんだね。
夜が、怖くない。
もう、孤独じゃない。
憂鬱な朝じゃない。
明日が来ることが、怖くない。
もう、俺はこの運命から逃げない_____
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