来たるとき
詩は時々、突拍子もないことを言う。
それも平然と。
さも、当たり前かのように...
「さっきお前が俺と離れたくないって言ってたことなんだけど....」
何を言い出すかと思えばこいつは....
「翔も一緒に、学園くればいいじゃん。
ほら、俺の話きいて興味もってくれてたじゃん。
ちょうど帰ったら学園祭のころだと思うし、楽しいと思うよ?
あっ!
めんどくさい手続きのことなら心配すんなよな!
学園にだって南雲のじいちゃんくらいすげえ結界のアリスがいて、
それも中等部校長!
なんか南雲家とも血縁があるって言ってたし。
志貴さんならきっとこれくらいのこと....
第一、俺もこの山で世話になったし!
翔も学園に招待したいんだ。
俺の友だちも紹介したいしな!
ほら!めっちゃ楽しそうじゃない?
決まりじゃん!」
さっきの言いあいなど早くも忘れ、勝手に話を進めていく詩に、呆然とする翔。
ほんと、何言ってるんだこいつ...
ふと十次のほうをみれば、ふいっと南雲邸の奥へと消えていくところだった。
話は、聞こえていたはずだ。
今の詩の話をきいて、翔の頭に真っ先に浮かんだのは、十次だった。
じじいは、なんて言うだろう...
絶対反対されるよな...
この山を、アリス村を出るなんて...
小さくなった背中を見つめ、そう思った。
なんだか、いつも見る十次の大きな背中とは違う気がした。
「ばっかじゃねえの。
なんで俺がお前なんかと。
第一、この村から俺が出るわけねぇだろ。
俺にだって、家族はいるんだ___」
「そっかぁ、そうだよなっ
はぁ、疲れたし風呂入ろ。
今日、俺が先な」
意外にもあっさりと、詩は言う。
それも、拍子抜けしてしまう。
なんだ、俺は...
強引にでも、腕を引っ張ってほしかったのか....?
でも、この山を捨てるなんてそんなこと...
俺には....
小さなころからずっと育ち、駆け回り成長してきた山。
すべてをこの山で教わった。
生きていく術、強さはすべてここで、仲間やじじいから教わった。
そんな場所を、俺は守り続けなければならない。
じじいみたいに。
じじいだって、不死身じゃない。
じじいのあとは、俺が絶対に....っ
その夜。
2人並べた布団。
眠りにつく前に、詩は独り言のようにつぶやく。
「さっきのこと、俺は本気で言ったよ」
「うん...」
静寂が辺りを包む。
詩は、もう寝たか...
相変わらず、と思ったが、珍しく言葉をつなぐ詩。
「お前のこの山の家族に対する気持ち、わかってるつもりではいるよ。
でもほら、俺...ばかだから...
翔ともっと一緒にいたら、楽しいだろうなって、ただ単純にそう思ったんだ。
ま、お前がこの山離れるなんて思ってねえけど...
でも、少しでも俺と同じこと思ってんなら...
いや....
なんでもない...」
それからすぐに、寝息が聞こえた。
詩の呑み込んだ言葉はわかる。
決めるのは俺だ。
詩がこうして、この山に飛び込んできたように...
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