守り続ける
気が付くと、ベッドの上だった。
まわりが、騒がしかった。
白衣の人がせわしなく動いている。
病院か...
あの時、僕は撃たれて...
はっとして、起き上がろうとしてまったく身体が動かないことに驚く。
身体が、鉛のように重かった。
トキ、トキはどこに...?
それだけが心配だった。
数日後、見舞いにきた仲間がすべてを教えてくれた。
あの時、僕は腕だけかと思っていたが、何発も銃弾をくらっていたこと。
そして、1週間眠り続けていたという。
正気を取り戻したトキは、重症を負った僕をかばいながらも、いつものように敵を殲滅できたらしい。
しかし無茶がたたり、トキ自身も違う病院へ入院中ということだった。
何をやっているんだろう、僕は...
そう、自分を責めた。
トキを救おうとして、足手まといになっているじゃないか...
今もこうして、動けないでいる。
しかし、仲間を通してきいたトキからの伝言は、意外なものだった。
“守ってくれて、ありがとう”
それを聞いた瞬間、涙が止まらなかった。
そしてその1週間後、病室のベッドで終戦を告げる玉音放送をきいた。
トキも、同じように聞いていたのだろうか。
その時の感情は、無に近かった。
ただただ、僕たちの未来はどうなるのだろう、とそれだけだった。
数えきれないほどの戦果をあげた東雲家と南雲家。
戦時中は神だの英雄だのたたえられた両家は、戦争が終わると一変。
周囲の風向きは一気に変わった。
戦犯としてその名が世に伝わったのだ。
両家は大バッシングを受け、表舞台から姿を消すことを余儀なくされた。
それと同時に、両家のつながりを危惧した敵国政府は、両家の関りを断つよう命じた。
そして、すべての責任をとらせられるかのように、隊長のひとり、トキの父親は終身刑を言い渡された。
それと同時に、その息子であり東雲家長男であるトキは、消息を絶った。
東雲家と南雲家は、散り散りになり、細々と暮らさなければいけなくなった。
間違って東雲や南雲の性を名乗れば、白い目を向けられ、石を投げられた。
僕たちがやってきたことはなんだったのだろうか。
国を守るためと、国民を守るためと、信じて、命がけで戦ってきたのに、こんな仕打ち...
あっていいはずがない...
残された路頭に迷うアリスの元兵士やその家族を引きつれ、十次は山へ籠ることにした。
政府など信じない。
そう確固たる意志を決めこみ、十次たちはアリス村とかかげ、政府の干渉を一切拒んだのだった。
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