守り続ける
それからのトキは、不安定だった。
前みたいに、余裕がなくなっていた。
連日の出撃の疲れもあるとは思うが、一番は精神的なものだったと思う。
一番そばにいるのだから、一番わかった。
トキは、戦場で無茶をすることが多くなっていた。
今までは、敵になるべく死者を出さないような戦い方だったが、それも関係なく荒い攻撃が続いた。
僕や上官の制止も聞かずに、ひとりで突っ走ることもあった。
結果、敵は殲滅させられるが、無理な戦いは確実にトキの身体を蝕んでいった。
今までなかった、式神の暴走が見え始めた。
十次はいつも以上に慎重な結界のコントロールを余儀なくされる。
戦禍の中、ひとり敵に向かっていくトキを、僕はとめることができなかった。
隣にいたはずの相棒は、気が付けばずっと前を、ボロボロになりながら走っていた。
「あいつ、また元に戻ったみたいだな」
勇次が煙草をふかして言った。
叔父とは、このところ忙しすぎて会えていなかったから久しぶりだった。
「戻った?」
「ああ...お前は、お前が来る前のトキを知らないだろうが...
まさに今のトキがそれだよ...
あの死に急ぎ野郎...」
勇次は呆れたようなため息を吐く。
「お前がきて、少しはマシな戦いすると思ったんだけどな。
さすがは東雲ってところだ。
敵わない...俺ら南雲であっても、東雲が本気を出したら...手に負えないよ」
勇次は、遠くを見つめていた。
「トキを、ひとりで戦わせたくない...」
「ああ。そんなこと、みんな思ってる」
「どうしたら....」
「俺にもわかんねぇよ。
でも、くらいつくしかないんじゃねーの。
とめようったって、とまらねえんだから。
地獄の底までついていく覚悟がなきゃ、真にあいつの隣にいるってことにはなんねえ。
お前、共犯だなんて都合よく思ってるんじゃないんだろうな」
「え...」
「直接手を下してるのはあいつだってことを忘れんな。
俺たちはただ、見てることしかできねえんだ。
あいつの気次第で、相手を生かすも殺すもできるんだ。
それを受け入れられないようなら、今のうちにあいつから離れろ」
「な...っ」
「俺が非情に見えるか。
ならそれでいい...
でも現に、今のトキはひとりで戦うって決めた顔つきだ。
お前はもう一度、トキをこちら側に引き寄せられるのか?」
十次は、唇を噛み締める。
「僕はくらいついてみせる。
たとえそこが地獄でも、トキが選んだなら僕も行く。
来るなって言われても、絶対に行く。
相棒として、これは僕が立てた誓いでもあるから」
ふっと、気が緩んだかのように笑う勇次。
「お前も、強くなったよ。
お前が決めたんなら、気が済むまで行ってこい。
ボロボロになってでも、そのトキの背中、追っかけろ」
十次は強く、頷いた。
珍しく、出撃命令がない日だった。
2人でゆっくり浜辺を散歩するのも、しばらくぶりだった。
「そういえば、最近十次ってば髪伸ばしてんなぁ。
前は坊主貫いてたのに」
思い出したようにトキは言う。
「気付くの遅いよ」
今さら?と伸びてきた赤髪を触りながらいう十次。
「あっもしかして、俺がその方が好きだって言ったから?」
ふいに図星をつかれ、あからさまに言葉につまる十次をみて、笑い転げるトキ。
「あっははっ
十次ってばわっかりやすーっ
そうだよなあ、十次は俺のことが大好きだもんなぁっ」
そう言ってにこにこじゃれてくるトキ。
「なっ
男に好きとか言うなよな!」
ムキになって返す十次が面白いのか、トキは相変わらずまたいじる。
こんなに笑うのも、久しぶりな気がした。
もとのトキに戻ったようで、嬉しかった。
終戦の足音は、もうすぐそこまできていたことを、この時の僕たちはまだ知らなかった____
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