守り続ける
「昔話の、続きをしよう...」
ある日、夕飯の最中に十次は言った。
「え...」
急だな、と詩は思ったものの、気になったので耳を傾ける。
翔も、静かに聞いていた。
「なに....
これまでお前の修行をみて、わしがトキを思い出さずにはいられなかったのじゃ。
そう気を張らずに聞いてくれ。
本当に、お前たちはよく似ている。
訓練へのひたむきさも、時に人を笑わせるようなところも、どんな者へも愛情を忘れぬところも...
あとは、調子にのって失敗するところ、隙をみてサボろうとするところとかもな...」
罰がわるそうに詩は笑い、翔と目を見合わせる。
でも、トキと似ていると言われることは、ものすごく、嬉しいことだった。
「トキはとても強かった。
10隻の軍艦をも、ひとりで沈めたこともある。
戦闘機にだって物怖じせず、真正面から立ち向かう。
機関銃をもった歩兵など、相手にもならなかった。
トキは、数々の輝かしい戦果を挙げていた。
そんなトキのそばを、俺は離れることはなかった」
「コード01。
目標はっけーん!
30秒後に撃墜開始するっ」
無線から聞こえる、この場にそぐわない声。
戦争真っただ中の太平洋上空に僕たちはいた。
「トキ、気をつけて。
敵はまだいる」
無線で冷静に返す十次。
「わーかってるって」
どんっと突如乗っていた戦闘機に響く音。
はぁ、とため息をつく十次。
最高速度で飛んでいるというのに、身軽にそのボディに飛び乗ってきたのはトキだった。
こっちにグーサインを送るほど余裕のようだ。
「そんなこと他の味方の機体でやるなよ」
これを可能にしているのは十次の結界のおかげだ。
他でやれば、機体はバランスを失うし、何しろ十次の結界圏内から離れれば、いくらトキでも身体はその圧力でどうなるかわからない。
信頼を置いているにせよ、危険なことだった。
最初の頃は、この戦闘中の自由な行動に戸惑ったものの、今では次にどんな行動をとるのか読めるようにまでなってしまったのだから、慣れというものは怖い。
ほら、今もそうだ。
式神でつくったトキ特性の紙飛行機にのって、飛んで行ってしまった。
烏賊丸1号...いや、羽のところがこの前と違うから2号か...
そんなこと思いつつも、ちゃんとトキを見失わないように戦闘へ集中する。
しゃっ
シュッ
ダダダダダダっ
バシュッ
勝負は一瞬だ。
先に敵を見つけたこちらが優勢。
トキはまず、敵の武力をその式神で無力化する。
それでも向かってくるものは、やむなく羽を切断し、飛行不能にするのだった。
0コンマで行われるそれは、芸術ともいえる。
「十次!どう?
2番目の戦闘機!
煙で見えなくってさ」
トキが心配しているのは、撃墜できたかどうかではない。
「大丈夫!
パイロットが脱出したことを確認」
「了解っ
任務遂行。
帰還する!」
トキは、なるべく人を殺さないように戦っていた。
強いからこそできることだった。
敵は戦闘機ではない。
同じ人間だということを、トキは誰よりも肝に銘じていた。
それでも、仲間の命が危ない時ややむを得ない時は殺してしまうときもある。
そんな時でも、トキは心を痛め、しっかりと海や陸を見つめ、どんなに時間がなくても一度は振り返り、弔うことを忘れなかった。
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