守り続ける
「久しぶりだな、十次。
こうやって話すの」
なんだか嬉しそうなトキ。
だが、こちらとしては先ほどすべてを思い出し、7年間知らなかった事実を知らされたばかりだ。
どんな顔をしていいのか、どんな顔が正解なのか、わからなかった。
とりあえず2人、川辺に並んで腰をおろした。
「背も伸びて髪も切っちゃって、別人かと思ったよ。
俺、お前の獅子みたいでふっさふさの赤髪好きだったのになあ」
口惜しそうに言う、トキ。
まるで、昨日あの山で“また明日な”と言ったばかりの感覚に陥る。
でもそれは一瞬で、お互い伸びた背や青年と呼ばれる顔つき、兵士の体つきになり、持っている空気感もかわり、現実に引き戻される。
10年間、ほぼ毎日一緒にいた。
急に別々の7年間を歩むことになり、今こうして再会を果たす。
「その...
冷たい態度をとってわるかった...
忘れていたとはいえ、あれは...
申し訳ない」
ここに来たばかりのことを思い出す。
「あーそんなの気にすんなよ。
てか、相変わらず十次は真面目だなあ。
そういうとこ、変わってない」
「そうかな...」
戸惑いながらも、そう返す。
「トキも、変わってない。
ように見える...」
「そこは変わってない、でいいだろー。
...ま、そういうわけにはいかないか」
ふっと息を吐くトキ。
お互いが会うことなく、歩んだ7年間。
埋めるには時間がかかりそうだ。
でも、十次にはひとつだけ言えた。
「なぁ、トキ...」
「なんだよ、改まっちゃって」
「僕はもう、お前をひとりにしないよ。
....守るって言ったのに、守れなくてごめん」
7年越しに言えたこと。
トキは、驚いていた。
「あの約束...」
あの日の、何気ない約束をトキも覚えていた。
背中に大きくなったなと感じた弟の重みと、少しの熱さを感じながら下った山道。
「約束を守れなかったのは俺も同じだ。
結局、アキを守れなかった」
トキは唇を噛み締める。
「大事な時に、一緒にいられなかった。
僕がいれば、アキを止められたかもしれない。
止められなくても、トキのそばにいることはできた。
一番つらい時、隣にいられなかった。
お前を、ひとりにした。
ひとりで、戦わせてしまった」
抑えようと思っていたけれど、無理だった。
堰を切ったように涙が溢れた。
「責めるなよ。
あの時は、お前もつらかったんだ」
トキは空を仰ぐ。
「...アキを思い出して、眠れなくなる時がある。
こうして、ひとりでここにきて、あの時のことを考えるんだ。
どうすればいいのか、どうすればよかったのか、答えのない問いがぐるぐる頭をまわって...
何度考えてもわかんなくて、どうしたってアキは戻ってこないってわかって、絶望する...
でも、今はお前がこうして隣にいる。
これほど頼もしいことはないよ」
トキはそう言って、笑った。
涙でぐちゃぐちゃな俺の顔をみて、ずっと笑っていた。
それは、あの頃とまったくかわらない笑顔だった。
ひとりで乗り越えてきたものを思い、さらに涙がとまらなくなる。
「十次はやさしいよ。
俺と、アキのためにこんなに泣いてくれて」
十次は、首をふる。
「泣くなよ。
俺の相棒だろ」
トキはそう言って笑うんだ。
いつだってその言葉が、僕を突き動かした。
前を、向かせてくれた。
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