このサイトは1ヶ月 (30日) 以上ログインされていません。 サイト管理者の方はこちらからログインすると、この広告を消すことができます。

東雲 秋



「あっちだ!」

すぐに位置を特定したトキに続いて、十次も走り出す。

そして、木々が開けたその場所に、アキはいた。





「アキ!!」




そして、置かれた状況に息をのむ。

アキの目の前には、今にも襲い掛かろうとする、アキの身長の5倍くらいの大きな熊がいたのだ。

アキは腰を抜かし、涙目で尻もちをついていた。

「アキ、落ち着け...」

そういうトキの声も震えていた。

「十次、こっちに引き付けるから、力を貸してくれ」

「もちろんだ」

実際の戦いなどやったことはなかったが、やらないわけにはいかなかった。

冷汗が背中を伝う。

しかし隣のトキは、恐怖に震えながらも迷いはなかった。

そんな姿に自分も奮い立たせられる。




「いくぞっ十次!」




そんな声とともに、トキは自分の身体の何倍もある熊に向けて式神を飛ばす。

シャッと風を切る鋭利な音共に、熊の首の近くを切りつけた。

「くそっズレたか....」

トキは悔しがっているが、動物とはいえ、迷いなく首元を狙うあたりは、さすが東雲家というしかない。

熊はうなり声をあげ、こちらを向く。

「大丈夫、注意はひけた」

十次はそう言って、自分のアリスに集中する。

「次こそ決める!」

「ああ」

トキの言葉に、十次は頷いた。

「アキ!

今のうちだ!逃げろ!!」

そう、トキが叫んだ時だった。






「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!!!

兄ちゃんたちを傷つけるなんて許さないっ!!!

僕だって、僕だって、東雲家だーーーー!!!!」





そんな、アキの悲鳴に似た声とともに、突如、突風が吹いた。

突然のことに驚くも、トキと十次は吹き飛ばされ、後ろの木々に身体を打ち付ける。

そして、トキの狩衣が裂けたことで、トキはその風の正体を察する。




アキ...?!




止まない風の中、必死に目を開け、それを確認する。

「十次、気をつけろ!!

アキの式神だ!!

たぶん、制御できてない!!」

大声で言ったが、十次に聞こえているだろうか...

そう思うが、十次にはなんとか聞こえたようで、それでも驚きを隠せずにいた。

まさか、アキがこんなに強い力を...っ

でも、極限状態にあってまだ未熟な力。

何があってもおかしくはなかった。

「アキ!

力を抑えろ!!」

身動きすらとれない突風。

木々もなぎ倒されるほどの力。

目を開けるのもやっとだというのに、鋭利な式神が予期せぬ動きで飛び交う中、トキはアキのもとへと進もうとする。

「だめだ、トキ!!

お前まで!!」

とっさにトキの身体へ飛びつき、制する十次。

「離してくれくれ、十次!

俺は、アキを、アキを守るんだ!!

そう言ったんだ!!

俺はどうなってもいい!!

このままだと、アキが....!

アキが壊れてしまう...っ!!」

必死なトキに、はっとする。

トキの想いは知っている。

でも、ここでトキまで行ってしまったら....

十次はふっと息を吸った。

やるしかない。

いちかばちか。

アキのアリスで試したことはないが、トキとは何度もやった。

兄弟なら、東雲家なら....

アキ、俺たちを守ろうとしたように、耐えてみせろ...

その様子に、トキは気づく。

「やるのかっ

十次?」

「これしか方法がない....」

トキは唇を噛み締める。

「やってくれ、十次。

お前と、アキを信じる」

十次は静かに頷いた。




何も、特別なことをするわけではない。

ただ、結界のアリスを使うだけだ。

しかし、こと東雲家の前では慎重にならなければならないこの力。

アリスは、結界の中でその力を使えない。

しかし、東雲家の式神に関しては違った。

能力者にその結界が働くと、まわりの無駄な情報が排除され、よりアリスが使いやすくなる。

感覚が研ぎ澄まされ、アリスをコントロールしやすくなるほか、もともと眠っている力を奥底から引き出すこともできる。

そして、その力はどの結界の能力者よりも、南雲家のアリスが、なぜか東雲家と相性がよかったのだ。





「戻ってこい!アキ!」





一歩間違えば、さらに暴走するかもしれない。

でも、今のアキを守るには、これしかない。








.
5/7ページ
スキ