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東雲 秋



「さっきも言った通り、東雲家の式神のアリスは、その力の強大さゆえ、もつものの器量も問われる。

抑え込めなければ自分が食われ、最悪死に値する。

まだ幼いアキにとって、東雲家の訓練は早すぎたんだ」

「そんな...

俺の記憶だとアキだって普段はアリスを抑え込めていたはず...

それが暴走するなんて、一体どんな訓練を...

...まさかっ」

言って、自分でひとつの仮説にたどりつく。

勇次は頷く。

「南雲家との訓練だ」

そうきいて、頷けてしまった自分がいた。

南雲家の結界と東雲家の式神は相性が良すぎるが故、時に式神を暴走させてしまうリスクがあった。

しかし訓練を積み重ねることによって、そこを克服した先に、より強固な力が生まれるのである。

そういう意味では、トキと十次は相性がいいと昔から言われていて、一緒に遊ぶようになったのも、元はといえばより強い人材をうむための両家思惑だった。

しかしながら、そんなことなど関係なく、2人は良き友として、共に成長を遂げていったのだ。





そして、十次は遠い記憶の中から、ひとつ思い出していた。

それは、いつものように3人で遊んでいた時のこと。

この日は、いつにも増して遊びに夢中になり、時間を忘れ、山の奥まで来てしまっていた。

その頃からトキのアリスは一族の中でもセンスを認められているほどで、その式神の力があれば、何も怖いものはなかった。

そして、十次もいた。

2人がいれば、何も怖いものはないと思っていた。

幼いころから、自分たちは最強だと信じて疑わなかったのだ。





「トキ兄ちゃん!

そんなに奥まで行っちゃだめだって、父さん言ってたよー!

獣が出るって、」

2人の背中をはぁはぁいいながらついてくる、小さい小さいアキ。

「なんだよ、アキは怖がりだなあ」

笑うトキ。

「そんなに怖いなら先帰っててもいいぞ」

くしゃっと、アキの頭をなでる十次。

「こ、怖くなんかないよ!

僕は東雲家だもんっ」

そう、頬をふくらましていうアキがかわいくて、2人は同時に吹き出す。

「なんだよう、2人して....

僕だって兄ちゃんたちの歳になったら...っ」

「そうしたら、俺たちももっと年上になって、もっともっと強くなってるぞ」

十次はからかっていう。

またむぅっと膨れるアキに、トキは笑って言った。

「いんだよ、アキは。

アキのことは、俺と十次が守ってやるから」

十次と肩を組んで、当たり前のようにいうトキ。

十次も、うんと頷いた。

この頃から、アキを守るという言葉はトキの口癖だった。

その言葉はアキも気に入ってるようで、いつも満足そうに頷いて、その背中について行っていた。





そして、ひとしきり山の中で遊びまわり、陽が落ち始めてきた。

さすがに帰らなければと、話していた時だった。

「あれ、アキは...?」

少し目を離したすきに、アキの姿を見失っていた。

はっとして、2人で探し始める。

「アキ!もう隠れないでいいぞー!

そろそろ帰るぞーー!」

十次は叫ぶ。

トキは、式神を周囲にまき、アキの姿を探した。




と、その時だった。





「兄ちゃん!!!

助けてぇっ!!!」





山の中に、アキのただならぬ声が響いた。






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