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探し物



「体調どうだ?

制服、似合ってんじゃん」

詩は何も変わらない。

まわりの中等部生の人だかりがいなくなると、いつものように棗の肩に腕をまわし、じゃれている。

流架の頭をわしゃわしゃとなでるのも忘れなかった。

うざったそうにする棗も、いつも通りだ。

そんな光景を、流架は安堵しながら見つめる。

また、日常が戻ってきた。

蜜柑という存在は傍にいなくなってしまったけど、苦しみの枷は確かに外れた。






「中等部入学おめでとう」

太陽のようにまぶしく笑う詩。

自然と、みんなの気分を軽くしてしまうその明るさ。

時々、そんなエネルギーはどこからうまれるのだろうと思ってしまう。

「これからどうするんだよ」

棗はそう、鋭く問うてくる。

「会って早々その話かよ」

ったくしょうがねーなあと、詩は苦笑い。

「お前もそれで来たんだろ」

あきれた様子で棗はいう。

「中等部の入学祝いは本当だぜ。

まあ、そのついでに危力の新しい担当教師から言付かったことを告げに来た」

新しい危力担当の教師といえば、鳴海だった。

「え、そうだったの?」

と、聞いていなかった詩の目的に横の殿内は驚く。

「あ、いたんだ...」

という流架の素直な言葉が刺さる殿内はおいといて、詩と棗は向き合う。

「聞いて驚くな!

棗を、俺の後任の危力系代表に任命する」

びしっと指をさして決めポーズをとる詩に反して、え、と時がとまる感覚に陥る。

「なんだそれ...

お前ついにめんどくさくなったのか」

最初に口を開いたのは殿内だった。

「ちっがーう!

まあいろいろあってだな、俺はこれから少しの間、学園を留守にする。

また危力系の代表が不在になるのは危力系にとっても、これから入学してくるアリスにとっても不安なことだろ?

そこで、俺の後任を考えたんだけど棗しか思い当たらなかった」

「え、初耳なんですけど」

殿内も耳を疑っていた。

「今言った」

にこっと無責任スマイルが返ってくる。

驚いたが、詩の企みはこれだったかと妙に納得する自分もいた。

しかし棗の表情は険しかった。

「ああ心配すんな。

任務とかじゃねえよ。

俺が希望したんだ。

志貴さんにも話は通してある」

「留守ってどこに...」

流架は不安げに、棗も思ってるであろうことを口にする。

「まあ今はくわしくそれを言えないんだけど、しいて言うなら“自分探しの旅”かな」

髪をなびかせかっこつけたものの、自己満足だったようだ。

さすがに3人の反応で察した。

「お前イタいぞ」

殿内の言葉を真正面に受けたから、ダメージは大きい。

「納得できるように話せよ」

棗の真剣な瞳をみて、詩はふざけるのをやめる。

「俺は、失ったアリスを取り戻す準備をする。

俺は俺自身とそのアリスについて、もっと知りたいし、知らなければいけないんだ。

今こうして生きていられるのは、じじいとそのアリスのおかげだから...」

本来ならば失われていた命。

棗がそのことを考えない日がないのと同じで、詩もそのことは考え続けていた。

「それと、今回の危力系代表のことはちゃんと棗にもメリットがある」

詩はまだ何か企んでいる様子。

「お前がちゃんと任を果たし、それが認められれば“飛び級”っていう措置も検討されるらしい。

な、わるくないだろ?」

悪戯っぽく笑う詩。

はっとする棗と流架。

「ま、くわしくはナルにきくんだな」

詩はそれだけ言って、鼻歌交じりにその場を去るのだった。







帰り道、殿内ははあっとため息をつく。

「ったくお前って次から次へと突拍子もないこというよな」

「なんだ殿、また俺が留守にするの寂しがってくれてんの?」

おちょくる詩はなんだか嬉しそう。

「別に。

お前の今の顔は前に比べたらよくなったから、全然心配してねーよ。

むしろ逆。

お前の隣にいると、飽きねえな」

殿内は楽しそうに笑った。

最高の誉め言葉に、詩もまた笑う。






今こうして友の隣で笑っていられるのも、じじいと、学園の仲間のおかげ。

ありがとう。

これから恩返しするために、もっと強くなるために、大切な人を思い出すために、自分の一部を取り戻すために...

立ち止まってはいられない。

前に進もう。






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