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東雲 秋



「お前とトキが10歳の頃、その頃ちょうど、お前の母親が病にかかった」

十次は、うんと頷く。

「どんなに有名な治癒のアリスに見せても、結果は芳しくなく。

占いやその他もろもろのアリスに見せても、それは同じことだった。

一族総出で、手を尽くした。

しかし病というものは残酷で、日に日に母親の身体を蝕んでいった」

今でも、その時のことを思い出すのは苦しかった。

十次はぐっとこらえる。

「それをすぐ近くで見ていたお前は、幼かったこともあり、塞ぎこむようになった。

無理もない。

父親は南雲家として国の任務に追われ、重要な位置にもついていた。

家は留守がちで、一人っ子だったお前は、母親と2人、数人のお付きの人たちと広い屋敷にいる日々。

人一倍、母親への想いが強かったのだと思う」

大好きな母。

やさしく、包み込んでくれた愛を思い出す。



ー十次、あなたは私の宝物よ...

ーやさしく、強く、大切なものを守れるようになってね...

ー母さんは、どんなことがあっても、あなたを守るから...



「お前は、誰よりも母親のそばにいて、献身的に看病していたよ。

でもその代わり、トキやアキとも会わなくなった。

トキとアキはお前の母親にも世話になっていたから何度か見舞いにいっていた。

でも、十次を気遣ってか、次第にその頻度も少なくなっていった。

今は2人きりにしたほうがいい。

そう思ったのだろう」




ー十次の母ちゃん、そんなにわるいのか。

ー...うん。

ーでも、十次がそばにいるなら安心だよな。

ーそんなことない...アリスなんかあっても、一番大切な人を守れなきゃ、何も意味がない....

ーそっか...でも俺は、十次がいれば安心だよ。俺たちのアリスって、そういうもんだから。

ーありがとう、トキ...俺、なるべく母さんのそばにいるよ。父さんも、今大変みたいだし...

ーああ。俺の父さんも言ってた。



また、戦争が始まるって....





「お前の母親の容態がわるくなったと同時期、日本は戦禍の中へ飛び込もうとしている時だった。

そのため、お前の父親もなかなか帰ってこれずにいた。

東雲家としても、新たな戦力を増やすべく、幼いトキやアキも厳しい訓練を受けさせられていた」

「えっ...」

知らなかった事実に、十次は驚く。

母親が亡くなってから、十次は2年ほどそれを引きずり、ようやく訓練に参加したのも12歳の時。

それでも若い年齢だったが、トキとアキはそんなに前から...

「たぶん、お前に余計な心配をかけたくなかったのだろう。

実際、前線に立つのは南雲家ではなく東雲家だ。

戦場に立つのも東雲家のほうが早いことは稀じゃない」

そうであったとしても、友のそんな大変な時に俺は...

「十次が抱え込むことじゃない....

....でも、話しておくべきだと思うから、俺は話すよ」

覚悟はできてるか、という勇次の無言のまなざしに、十次は頷く。





「あれは、訓練中のできごとだったという...

秋の式神のアリスが、暴走したんだ」







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