東雲 秋
勇次と十次の話に遡る。
勇次は、東雲家とトキについて、語りだした。
「東雲家は、古くから日本の兵器として、矛として、その力を国のためにと使っていた。
彼らはそれがどんなに汚いことであろうと、結果、国を、国民を守ることにつながると信じて疑わなかったし、
その誇り高き精神から、東雲に生まれた使命として、その力を発揮することを惜しまなかった。
そして東雲家に代々伝わる式神と、南雲の結界の相性がよかったのも、お互いの一族がここまで繁栄した所以ともいえる。
東雲が国の矛なら、南雲は国の盾、守り神ともいわれ崇め奉られた。
お互いが力を出し合い、守り合うことで途絶えなかった血。
我々は強固な絆で結ばれることとなった。
っと、ここまではさすがにお前も知ってるか」
勇次はそう言って、また煙草に手を伸ばす。
「そんなわけで、東雲は幼いころから傭兵としての訓練を受けさせられる。
それは戦いで勝つためでもあったが、一番の敵は自分自身。
東雲の式神のアリスは、力が強すぎて己の力を抑え込めなければそのアリスに己の命が食い荒らされる。
つまり、死だ。
今まで多くの式神使いが、己のアリスに負け、若くして死んでいった。
俺のかつての友もそうだった」
勇次は、思い出してか、遠い目をしていた。
「十次、お前は...
トキの弟について、どれくらい覚えている?」
勇次の言葉が、さっきにも増して重くなった。
弟...?
トキに関しても、先ほど断片的に思い出したばかり。
そんなトキに、弟がいたなんて。
記憶を手繰り寄せている十次をみて、「思い出せないか」と笑う勇次。
少し、悲し気にきこえた。
「お前ら3人は、ガキのころからずっと一緒で、毎日遊んでいた。
トキと十次の後ろを、一生懸命ついていっていたあの姿がかわいかったし、懐かしいな。
そんなアキを、お前らもよくかわいがっていた」
「アキ...」
その名を聞いて、記憶の扉があく音がした。
「思い出したか?
東雲 秋。
時の3つ下の弟だ」
東雲、秋....
ートキ兄ちゃん...っ
ー十次兄ちゃん...っ
ー待ってよ!!
ーあはははっ アキ!おっせーなー!
ーそんなんじゃ戦えねーぞーっ
いいながらも、笑って手を貸すトキ。
2人はいつも、東雲家に伝わるそろいの狩衣(かりぎぬ)を着ていた。
ー俺、いつかトキ兄ちゃんや十次兄ちゃんみたいに強くなるんだぁ。
ひと回り小さいトキのようで、まだあどけないが、笑うととてもトキに似ていた。
トキのことが大好きで、いつもついて回っていた、あの少年。
ーアキは俺が守ってやるからな!
そう、当たり前のようにいつも言うトキ。
十次は一人っ子だったから、そんな兄弟が羨ましく思えた。
でも、いつも3人で、まるで兄弟のように遊んでいたっけ...
「秋は....今どこに....?」
聞いたものの、その先を聞くのが怖かった。
恐る恐るみた勇次の目は、とても暗かった。
「秋は、死んだよ」
その口から発せられた言葉は、にわかに信じがたかった。
「まさ、か....そんな....いつ....」
あの、いつも一緒にいたはずの、トキにくっついてまわっていた少年がいないだなんて....
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