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東雲 秋








十次は、走っていた_______






夜の闇の、深い森の中。



たった今、叔父の勇次からきいた話...




それを知った今、居ても立っても居られなかった。




訓練で半日かけて進む森の中を、全速力で、わき目も降らず、ボロボロになりながら....




なりふりかまわず...




そこまでしてでも、伝えなきゃならないことがあった。




あいつに。




トキに....





もうあいつを、ひとりにしてはいけない。





ひとりにさせちゃいけないんだ。




俺はバカだ。




こんな大事なことを、大事な人を、今まで忘れていたなんて...




トキ...




トキ....っ






宿舎の裏手。

川が流れているそこに、トキはいた。

真夜中だというのに、なんでこんなところに...

そう思うが、今は関係なかった。





「トキ...っ!」





「十次...っ?!」

気づいたトキは、相当驚いている様子だった。

「部屋にいないと思ったら...どうしたんだよその恰好...」

俺のボロボロな姿に目を見開くトキ。

でもそのあと、何か察したらしく、困ったような笑みを浮かべる。

そして、息も切れ切れに十次は口をひらく。

「俺、おまえのこと...っ」

しかしそこで、言葉につまってしまう。

“忘れていた”なんて言ったら、どう思うだろうか...

でも、トキはニカっと笑う。

「忘れてたんだろ」

十次はぐっとつばをのみこんだ。

「最初はショックだったけどな。

でも、純粋に俺はお前とまた会えてうれしいよ。

それに、その様子じゃ思い出したらしいしな」

十次はゆっくりと頷いた。

「叔父上に、会いに行った」

「そっか、勇次さんか」

納得がいったように、トキは頷く。

「全部、きいたんだ」

うん、と頷きちいさく「すまない」と謝った。

「謝るなよ、別に俺は構わない。

父さんが隠してるだけで、俺は隠すつもりなんてないから」

トキらしい答えだと思った。

あの時からかわらない、広い心の持ち主。

すべてを知り、思い出した今、目の前にしてわかる。

トキはあの頃から何も変わってないんだ。






あの、きらきらと笑い、すべてを照らしていた少年は、変わらずそこにいた。





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