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記憶の扉



「俺の名前は、




南雲 翔___」







固く手を握り合った詩と翔の手。

この手が何か、とても大切なものを繋ぐような、とても特別なもののような気がした。

祖父トキも、南雲十次とこうして手を取り合ったことがあったのだろうか...

そうであったらいいな、と思いをはせ詩はやわらかく笑った。

翔は、今何を、思ってるのだろう....







ざざっ





一際大きな風が吹いた。






「南雲様っ」

「南雲様だ」

「いつのまに...」





2人はゆっくりと握手した手をほどき、天狗の面の十次へと向く。





「よくやった、詩。

わしの出した課題はクリアじゃ。

お主は、翔の面をとっただけでなく、ここにいる子どもらの信頼をも得た」

詩を見つめる子どもたちの目は、1週間前とはまるで違った。

憧れ、尊敬、信頼のまなざし。

子どもたちはいつのまにか、詩という人間から目が離せなくなっていた。

その誰にでも分け隔てのない温かい人柄、目標に向かって、己と真剣に向き合い、打ち勝つ精神力...

獰猛な狼を追い払ったあの、式神のアリス。

翔との戦いでも垣間見えた、希望、可能性、期待。

水に溶け込むインクのように、じわじわとその明るさが皆の心になじむようだった。

よそ者を、変化を、違いを、みんな受け入れた瞬間だった。







「みんな、ありがとう!」





詩は大きくみんなに、手を振った。

ユウヒは飛び跳ね、まわりからも拍手が沸き起こる。

「詩、つえーよお前!」

「かっこいいー!」

「すごいぞ!!」

詩は一層、嬉しそうに笑うのだった。







「さて、わしもお主へ話すべきことがある。

ここは落ち着かぬ。

屋敷へ翔と来い」

十次はそう言って、一足先にその場を離れるのだった。






「お疲れ様です、東雲さん」

黒峰のやさしい笑み。

「よくやったと思うけど、課題が面をとるじゃなければ圧倒的に南雲様が...っ」

「紅蘭」

翔はその言葉を制す。

「今回は俺の負けだ。

終わった戦いにいちいち口を出さなくていい」

静かな翔の言葉。

「すみません、南雲様...」

「まあ、褒めてくれてるんだろ!

ありがとなっ」

詩は気にしてない様子で、無造作に紅蘭の頭をなでるのだった。

そうして、寄ってきたユウヒともハイタッチし、1週間の鍛錬の成果を喜んだ。






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