探し物
「よ、棗」
久しぶりにみた棗は相変わらず不愛想。
しかしその瞳の奥は、燃え盛る炎のように熱を帯びていた。
覚悟と決意。
同じだ。
どうして俺たちはこうも似ているのだろう。
同じ闇をゆく後輩を、知っててとめてやることができないジレンマがあった。
詩自身、誰にもこの衝動を止められないことを自覚している。
だからこそ、棗の気持ちが理解できてしまう。
でもきっと大丈夫。
今はそう言える。
今の棗はひとりではない。
蜜柑が残していってくれたものがあるから。
「わぁー詩先輩だあ」
「専科の始業式はいいのー?」
「今日もかっこいい!」
棗や流架たちに会いにきたにもかかわらず、他の新中等部生に囲まれてしまう詩。
あの騒動以降、学園では詩の活躍が騒がれていたのだから、以前よりもどこにいっても詩は人気者だった。
打倒初等部校長の中心人物として、学園側もその目が詩に集まるのはちょうどよかった。
関わったすべての先生や生徒たちへの注目を詩が一手に引き受ける形となっていた。
そのおかげで、あんなにも学園中を騒がせ、学園の統制が一変するようなできごとだったにも関わらず、詩以外の生徒や先生は平穏な日々を送ることができていた。
詩という人柄は学園全生徒の理想形そのものだったがゆえに、変な憶測を生んだり、下手な詮索をされることは最小限にとどまったのだ。
もちろんある程度の情報規制は志貴により出され、あの日何が起きたか具体的なことを知るのは一握りしかいない。
そんな中で詩は皆の期待通り、公の場に何を隠すこともなく現れてみせた。
中等部生の輪の中にいる棗。
これこそが蜜柑が残してくれたもの。
かけがえのない仲間。
そして、決してひとりではないと思わせてくれる心。
大丈夫。
棗はもう、蜜柑と出会う前の棗じゃない。
蜜柑を失ったといえど、きっとまた2人は巡り合える。
詩はそう信じて疑わなかった。
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