南雲対東雲
「武器なんていらねえ」
詩は、武芸の構えをする。
南雲もすぅっと呼吸して、応じた。
「バカね。
さっきよりも間合いの狭い格闘。
打撃も直接加わる戦いを、自ら選ぶなんて...」
紅蘭はつぶやく。
しかしその瞳の紅は、炎のような熱さを増しているようだった。
わくわくしていた。
ざっ
ばしっ
がっ
ごふっ
鈍い音が響く。
さすが南雲...
ひとつひとつの打撃がその見た目に反して重かった。
そして、ちゃんと決めにかかっている。
すんでのところで避け、腕や足で受ける止める。
とても、面をとることに集中できなかった。
ー呼吸を感じて
ー相手の呼吸も、自分の呼吸も支配して...
黒峰にも、紅蘭にも言われたこと。
たしかに自分の呼吸に集中すると、全身の血液の流れがわかる気がした。
自分の身体をどう動かせばいいか。
思ったままに動かす。
いや、考えている時間すらももったいない。
もっと早く。
思考より早く。
相手の呼吸をとらえて、何よりも早く、細胞が反応するように....
集中、集中、集中...
目の前の、南雲だけに集中するんだ。
こいつの強さを知りたい。
なぜ、こんなに強いのか...
直感だけど、それを知ることは自分の知りたいこと、自分の式神のアリスについて知ることにつながる気がした。
こいつは、なぜ強い?
何を見て、何を感じてる?
この戦いの中で、俺に、何を見てる...?
ぱっ....
なんだ、これ...
動きが止まって見える。
突如襲った今までにない、不思議な感覚。
まわりが真っ白で、いるのは南雲と俺の2人だけ。
俺、死んだ?
まさか...
これが俗に言う、ゾーンってやつ?
誰かが言ってたけど、ほんとにあるんだ...
いや、それよりも...
降ってくる南雲のきれいな拳。
無駄のない動き。
それすらもゆっくりと見える。
かわしてすぐに切り返す。
今まで以上に、南雲を近くに感じた。
面の奥の、彼の表情さえわかる気がした。
今の攻撃を避けた時、南雲の顔が驚いているように見えたのは気のせいか....
ばしっ
だっだっだっ
初めて、詩の連続攻撃がきまった。
間髪入れずに次の攻撃へと入るが、南雲はすんでで避ける。
まだまだ...っ
「逃げんなっ
俺の攻撃を受けやがれっ!!」
詩の一際大きな声が境内に響き、詩は飛び上がる。
蹴りか...っ
南雲は即座に反応してみせる。
受けてやる。
それくらいの打撃....!
南雲が、詩の蹴りが狙う脇腹を腕で受け止めるかと、思われた。
そのときだった。
ふっと予期しないタイミングで殺気がゆるんだ。
なに...っ
カラン、カラン、カラン....
地面に転がった、狐の面。
あたりをまた、静けさが包んだ_____
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