南雲対東雲
「南雲 対 東雲。
武器は竹刀だけ認め、アリスの使用は禁ず。
お互い、構え!」
黒峰の声が、静寂を切り裂く。
いつも以上に、気合が入っていた。
黒峰自身も、この戦いには興味があった。
「ちょっと待ってくれ...」
詩は、その緊張感を前ぶれなく断つ。
まわりからは、ブーイングが起こる。
しかし、そんなことには動じない詩。
「一つ言い忘れてた」
面の奥の眉がぴくりと動く。
「これは、じいちゃんの課題だけじゃない、俺たちの戦いでもある。
俺が勝ったら、
____お前の名前を教えろ」
「何言ってんだ詩兄ー!」
「南雲様に失礼だぞ!」
「撤回しろーっ」
そんな言葉が飛び交うが、詩はまっすぐ南雲を見つめていた。
「いいだろう」
南雲の一言に、その場は静まる。
誰も、予期していない答えだった。
詩は、にっと笑った。
黒峰は、すぅっと息を吸う。
「両者、構え合って。
____はじめっ!」
神社の境内に、黒峰の声が響いた。
同時に、解けた緊張感から、カラスがばさっと飛び立つ。
詩と南雲も、その一歩を、地面を、蹴り上げた。
ざっ
ばしゅっ
パシっ
ガッ
ザザ____
目にもとまらぬ速さの攻防。
子どもたちは追えずにいた。
「2人とも、すげぇ...」
ユウヒは思わず言葉をもらす。
しかし紅蘭は厳しく見つめたままだった。
「圧倒的に南雲様が優勢ね」
「え...」
ユウヒの目には、いくら凝らしてもそうは視えなかった。
ただ、2人の匂いが混ざり合い、ぶつかり、なおも打ち消しあわない、強い匂いに頭がくらくらした。
紅蘭の言う通り、現状は南雲の一方的な攻撃に押されていた。
見切れて反応して防御してはいるものの、こちらからはとてもけしかけられない。
差は、歴然に感じた。
それでも、俺は勝たなければならない...
なんとか、なんとかしなければ...
今の俺ができる、精いっぱいを_____
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