南雲対東雲
休憩から戻った詩と紅蘭。
そのまわりには、ひとだかりができていた。
今、まさに、実践練習が行われようとしていた。
紅蘭は、狐の面をつける。
2人の緊張のように、張り詰めた空気。
大丈夫、俺も一緒に大事なものを守るから。
強いってことを、証明するから。
だからもう、心の声を押し殺して、みんなに背を向けるな____
ざっ
しゅっ
同時に踏み込んだ一歩。
パァァンっ
見切れたものは何人いただろうか。
今もなお、起こったことを把握できずにいる者が多数だった。
カラン、カラン___
中心から真っ二つに割れて地面に落ちる狐面。
そこで、やっと皆が理解した。
「強いじゃん...あんた」
唯一、正面からその攻撃をみることができた紅蘭。
あまりの速さに、見切れても反応が追い付かなかった。
さっきまでの動きと、全然違う。
「おまえが強くしてくれたんだよ。
お前を守りたいって気持ちが、俺を強くしたんだ。
お前がもう、ひとりきりでがんばらなくていいように。
ひとりきりで泣かなくていいように」
詩はそう言って、竹刀を肩にかつぎ笑った。
紅蘭は、力が抜けたようにその場に座り込んだ。
「紅蘭!」
「紅蘭ちゃんっ」
「大丈夫?」
みんなが、その周りに集まる。
紅蘭を囲んで、それぞれ声をかける。
その中には、てまりもいた。
紅蘭の手を握り、淡く優しい光でかすり傷を癒す。
「お姉ちゃん...っ」
紅蘭はその小さな身体を抱きしめた。
「顔上げろよ!
お前の家族はたくさんいる」
詩の言葉に、紅蘭は小さく頷き、顔をあげた。
みんなが、自分をみていた。
心配そうにみつめるもの、憧れのまなざしを向けるもの、笑顔でやさしく見守る者....
「私は大丈夫。
久しぶりの完敗。
やっぱり悔しいよ!
私も明日から鍛えなおさなきゃね!」
紅蘭は、心配を吹き飛ばすくらいの笑顔で、笑っていた。
負けたにもかかわらず、清々しい顔の紅蘭。
詩も、笑顔を返すのだった。
そんな中、まわりがざわつく。
「南雲様...っ」
「南雲様がくるぞ...」
「道を開けろ...」
子どもたちがそう言って、その場から離れる。
道のようにできたその先、狐面の南雲がいた。
詩の真正面に立つ青年。
静かな風が吹いた。
「明日、神社の前で待つ」
詩はその言葉に、おさえきれずににかっと笑った。
「ああ。
もちろんっ
待ってたのはこっちのほうだけどな!」
疲れているはずなのに、そんな顔ひとつみせずに、むしろもっと生き生きしている。
そして、周りの気分もよくしてしまう素直な、嬉しそうな表情。
黒峰は優し気に見守るのだった。
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