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式神と獣



少し冷たい夜の風。

昼間の騒動とは変わって、あたりを静寂が包んでいた。

夜ごはんをみんなで食べた後、遊び疲れて寝息をたてるユウヒ。

その寝顔をみると、なんだか安心した。

はだけた布団をなおしてやり、詩はそっと部屋をでた。






ひとり来たのは校舎の屋根の上。

学園でも、高いところが好きだった。

独りで登るそこは、誰にも踏みつけられない場所。

見上げても広がるのは空だけ。

いつか自由になって、この空を飛びまわってやる。

そんな空想を膨らませていると、鬱屈した気分も紛れた気がした。

高いところから、すべてを見渡せるような景色が気持ちを軽くした。






夜の山は、昼とは違った不気味な感じがするが、奥に見える南雲の屋敷の灯りは温かかった。

みんなが南雲を慕う理由がわかった。

こんなに暗い夜でも、どんなに深い山の奥でも、安心して眠れる。

明日、明るい朝日を浴びれると信じて疑わない子どもたち。

すべて南雲のおかげだ。





「先客がいましたか」





ふと、自分以外の声がして驚く。

「すみません、驚かせるつもりはなかったんです。

隣に行っても?」

そう言って近づくのは、黒峰だった。

「寧々さん!もちろん!

...ここ、よく来るのか?」

隣に並ぶ黒峰に、詩は尋ねる。

「ええ。

たまにね。

幼いころは怖かった夜も、今はそんなに嫌いじゃない」

「寧々さんも怖いものがあるんですね」

くすっと、詩は笑った。

「あら、どういう意味かしら」

寧々も、可笑しくて笑った。

「寧々さんは、剣術だけじゃなくて、心も強いから。

戦った時、まっすぐにそれが伝わった」

黒峰との稽古は、毎回全細胞が沸き立つように痺れる。

「それは私も一緒よ。

あなたと対面したとき思った。

まるで、南雲様と向き合ってるかのようだった。

あ、狐面のほうのね」

黒峰はどこか遠くをみていた。

「え...

そんな、俺はまだまだだよ。

自分のアリスに呑み込まれそうになってるようじゃ...

あの時も、あいつがいなきゃ...」

昼間、肩に置かれた南雲の手の熱がよみがえる。

「南雲様は、あの時誰よりも、東雲さんのことを信じていたんだと思います。

だから東雲さんも、自分のことを信じてあげてください。

大丈夫、あなたは強いです」

まっすぐな黒い瞳に見つめられ、はっとする。

黒峰の時折みせるこの目力は、なんでも見透かしてしまうようだった。






「強いっていえば、紅蘭もすげえよな。

まだあんなちいせーのに。

今日の紅蘭の目、大切な人を守る目をしてた。

あの目をみて、久しぶりに懐かしい人たちを思い出した」

先生、蜜柑、柚香さん...

棗、秀、殿、翼、##NAME1##...

「だから、ここに来たんですね」

黒峰はやわらく笑う。

「え...」

「空はつながってる...

同じ時間を生きる人も、過去に同じ夢をもち、生きた人たちも...

すべて」

黒峰の横顔は、月に照らされ美しかった。

「南雲様の受け売りです。

おじいさまのほうのね」

「空はつながってる...」

詩はつぶやいた。

静かに黒峰は頷く。




昴...

お前は、俺と同じ時間を生きているのだろうか....

こうして、同じ空を見つめているのだろうか...

たぶん、お前もあの時の紅蘭と同じ、大切な人を守る目をしてたんだな。

顔も、記憶も思い出せない。

でも無性に、この夜の闇に広がる満天の星空をみて、懐かしく思った。

先生を失って、任務に明け暮れる日々。

あの日、任務から帰ってふと見上げた夜空がきれいだった。

まるで、先生が笑っているかのように、星がきらきらと...

自分ひとりみるなんてもったいなくて、秀を叩き起こしたんだっけ。

あの時の星空は、今でもずっと覚えている。




なあ、昴...

お前はあの時、俺の隣いたのかな____




同じ空を見上げて、同じように希望の星屑を、掴もうと____



小さな胸に大きな決意を抱え、先生のいる空に、何を誓った___?







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