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探し物



「俺にもわからないことだらけだよ」






詩のこれほど神妙な顔つきは珍しい。

ましてや、学園を命がけで救ったスーパーヒーローといわれている彼には似合わない、浮かない表情。

殿内は隣の詩を見つめる。

考え込む姿より、その大胆な行動と堂々たる言葉が彼の持ち味だった。

それが今、こんなにも彼を思考の海へと引きずり込むなんて...

きっと、わからないんじゃない。

わかっているのに、思い出せない、が正確な表現だろう。

大切な、何か大切なパズルのピースが抜け落ちているような...






一度は止まった詩と棗の心臓。

それがまた動き出すには何か、大きな力が働くことが不可欠だった。

詩自身に起こったのは、祖父のアリスの力だった。

しかし、棗に加わったのはまた違った特殊な力。

その鍵を握るのが、琉架がもっていた不思議なキノコ型のイヤホンだった。

そこから一方的に流れてくる声も、最近は途絶えてしまった。






そのことに関して、志貴や高校長側から尋問があった。

そしてそれに応えることができたのは、のだっちのほかに、琉架と櫻野と詩の3人だけだった。

3人だけにしかわからないことも謎を深めたが、のだっちの推測と照らし合わせながら、慎重に学園側が調査し導き出された事実があった。








それは、いつの間にか、皆の記憶から消し去られた2人の学園生徒の存在。

“今井昴、蛍兄妹”

この2人が、今回の時空の件に大きすぎるほどに関わっていたということ。

そして皆の記憶のキーとなる。






「やっぱり、殿も見当つかねーか」

詩の話をきいても、にわかには信じられなかった。

「だってそんな...

急にみんなの記憶の中から跡形もなく消えるだなんてそんなことありえるのか?!」

一瞬にして、すべての人の記憶からいなくなるなんてそんな恐ろしいこと...

鳥肌がたった。

「いや、でもお前にはその記憶があるんだよな?」

詩は首を振った。

「あるというほどのことでもない。

今井昴、蛍。

2人の名前が調査で浮かび上がったとき、特に昴という名前に、何かわからないけど、強く強く全身の細胞が反応したんだ。

思い出そうとしても、何かもやのようなものが邪魔して、うまく考えることすらできなくなる。

きっとそいつは俺にとって大切な人で...

思い出してやらなきゃいけなくて...」

そういう詩は、とても苦しそうにみえた。

大切な人に忘れられた今井昴という人。

そして、大切な人を忘れてしまった詩。

親友の苦しみは痛いほどに伝わってきた。






「ったく、お前らしくねーぞ!

元から空っぽな頭で考えたってしょーがねえんだから!

お前はお前らしく、思った通りに動いてろよ。

なんか企んでることあんだろ?」

え?と詩が顔をあげる。

親友の殿内はいつの日かのように悪戯っぽい笑みを浮かべていた。

「なんでわかっちゃうんだよ...」

ミルクティー色の長い前髪の奥で、詩は笑った。




「当たり前だろ。

何年お前の無茶に付き合わされたと思ってる」

「付き合わされたってひでーなー。

“共犯”だろ?」

詩も、悪戯っぽく笑った。

「ま、そうともいうな。

いつもどおり俺がフォローしてやっから、お前は好きに動け。

それが俺にできることだ」

「わりいな殿」

「ああ、借りは返せよ」

「もちろん」

2人は自然とグータッチをしていた。

これ以上の会話は不要。

なんだか、またあの頃に戻ったみたいだった。

いや、戻ったのだ。

学園を、帰る場所を、家族たちを、守ったのだから...






「さ、あいつらに会いに行くかっ」

いつのまにか式は終わり、ぞろぞろと生徒たちが外へ出て行き始めていた。

詩は、いつものように彼らを優しくみつめていた。






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