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式神と獣



「行けっ」






詩の合図とともに、式神の獣は狼に襲い掛かる。

身体の大きさ、パワー、獰猛さ。

すべてが狼よりも上だった。

まるで、この世のものとは思えない化け物。

しかし確かにそれは、狼をひるませ、退却させるのだった。

念のため、危険のない山奥まで追わせ、姿、気配がなくなると初めて、詩は安堵のため息をついた。





そして、自分の手を見つめる。

初めて、成功した...

確かに自分の心に打ち勝てた。




気が付くと、あたりでは歓声があがっていた。

みんな、詩をたたえるものだった。

「ありがとう、東雲さん」

ふつうの姿に戻った黒峰が微笑んでいた。

「詩兄ーーっ

超かっけえぞーーー!!!」

奥で飛び跳ねるのは、ユウヒだった。

詩はやっと自分の成しえたことを実感した。

そこへ...





「南雲様....」




天狗の面の南雲がやってきた。

「よくやった」

詩と、狐面に向けて、そう一言だけ言う。

そして、てまりへと視線を移す。

てまりは少し怯えている様子だった。

「じいちゃん、こいつ。

わざとじゃないんだっ」

詩が前へ出ようとするのを、狐面がとめた。





「てまり、事情は察する。

お前のやさしさは誇りに思う。

...しかし、むやみに動物たちの縄張りに入ってはいけない。

この山はわしら人間だけのものではない。

動物や植物たちはわしらを敵から守ってくれる。

その代わりに、その領域を侵してはならんのだ。

いいか、わかったな?」

南雲の言葉に、てまりは頷く。

「よかろう。

その狐も、手当が終わったら森に返してやるのじゃ。

それと、お前の姉たちをあまり心配させるな」

南雲の言葉は、心なしかやさしくきこえた。

てまりは、傷ついた紅蘭を見つめ、傍による。

「ごめんなさっ...」

てまりの目から、せきをきったように涙があふれた。

そんなてまりをやさしくなで、抱きしめる紅蘭。

「あやまらなくていい。

大丈夫、大丈夫。

あんたが無事なら、それでいい...」

その姿は、髪の色も目の色も違えど、本物の姉妹のようにみえた。

詩の心もあたたかくなる。

詩は、紅蘭のそばにより、手を差し出す。






「紅蘭、かっこよかったよ。

立てるか?」

紅蘭は少しためらうも、そっと、詩の手をとった。

「...ありがとう。

てまりを助けてくれて、ありがとう」

すぐに目をそらすが、気持ちは十分すぎるほどに伝わっていた。







「さ、けが人の手当てをしたら夕飯じゃ。

お腹いっぱい食べて、寝て、明日からも訓練じゃ。

子どもたちよ、強くなれ____」








南雲の声が、空にも、心にも響いた____







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