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式神と獣



ざっ




木々の合間から走り出てきたのは、赤い浴衣を着たてまりだった。

そして、その後ろから出てきたのは大きな黒い獣、狼。

同時に、つるの遠心力で宙を舞ってきた紅蘭。

途端にあたりに子どもたちの悲鳴が広がる。

みんな、パニックになっていた。

そこへ、とんでくるもうひとつの影。

ものすごい跳躍力...

それは詩の隣に着地した。






「寧々さん...!?」






詩が驚くのもほかではない。

隣にいる寧々は、いつもの寧々と少しばかり姿が違っていた。

手と足は水かきのようなものがついていて、目も、は虫類のような切れ長の目。

肌の質感も人間のそれとは違った。

何より、普通に立つのではなく、これはまるで...




「蛙...?」




地面に両手両足をつくその姿は、蛙そのものだった。

「言ってなかったわね。

私のアリスは黒峰家に長い間伝わる、蛙変化(かわずへんげ)。

このアリスについて今説明している時間はないわ。

とにかく、あなたがその式神のアリスだというのなら、ここを収めてみなさい」

「え...」

「私は子どもたちの避難をする。

大丈夫、訓練を思い出して...」

黒峰はそれだけ言って、みんなのもとへ跳んでいった。

はっとすると、狼は今にもてまりにとびかかる勢いだった。

てまりは委縮して動けずにいる。

紅蘭はとっさに木の根とつたを出し、狼を攻撃するが、それが逆に機嫌を逆なでしたようだった。

狼はその蔓や根をかみちぎり強くふりほどく。

その反動で、予期せぬ蔓が紅蘭に直撃し、その小さな身体は投げ出された。





「紅蘭っ!!」

詩は叫ぶも、紅蘭はすぐに動けない様子だった。

「てまり...っ

南雲様...どうか...」

涙のにじむ目で狼を睨むも、動かない身体は無力だった。

狼は勢いのまま、てまりに襲い掛かった。






シャッ





「うぉおおおおおおおん」






大量の式神とともに、獣の鳴き声が響いた。

切れ味のいい鋭い式神が、狼に襲い掛かったのだ。

そして、皆の前にはてまりを抱えるように守る詩の姿。






「大丈夫か。

怖かったな」

てまりは目に涙を溜めてこちらをみていた。

その腕には、小さな狐の赤ちゃんが抱かれていた。

「この子、まだ赤ちゃんなの...

でもお母さんとはぐれて、弱ってて...

それを襲ってきたから、私...」

詩は理解し、笑いかける。

「そうか。

やさしいな...

俺も、あの時はてまりに助けてもらった」

詩は、山の中で力尽きたときのことを思い出していた。

「ありがとう。

もう大丈夫。

下がってて...」

詩はそう言って、てまりの前に立つ。

多少のダメージは与えたものの、未だ好戦意欲の消えない狼。

詩は、その獣を強く見据えた。






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