式神と獣
詩は子どもたちと時間を忘れてはしゃぎ、遊びまわった。
鬼ごっこにかくれんぼ、虫取り、お絵かき、水遊び。
詩はひとりひとりと目線を合わせ、みんながやりたいと言ったものをすぐに受け入れた。
そして一緒になって服を泥だらけにし、かすり傷なんてものともせず、真正面から楽しんでいた。
そんな詩たちの様子を影ながらみていた上級生たちも、見る目が変わってきていた。
「なんだあの溶け込みよう...」
「思えばあいつ、道場でもつらそうな顔してなかったよな」
「前髪が邪魔であんまわかんねえけど、いつも笑ってる」
「俺なんか隅で練習してたのに、竹刀さばきがすげえってきらきらした目でみてきて...」
「私も...いつの間にか名前覚えてくれてて...」
「うんうん、みんなに声かけてくれてた」
「意外と、いいやつかも...」
そんな変化に、遊びに加わる人も増え、詩の周りにはいつのまにかみんな集まってきていた。
歳の差、男女の差など関係なく、みんなが一緒になって笑いあった。
「ったく...
どこまで似てるのだ...」
天狗の面をかぶった南雲は、自分の屋敷の縁側で、静かにつぶやく。
あの笑顔と、人を引き付ける不思議な魅力。
訓練は人一倍真面目なのに、終わると気の抜けたようにへらへらと笑うあの明るさ。
人を味方につける、その行動と確固たる意志、強い真剣な瞳と、心が揺さぶられる言葉の数々。
ー南雲っ お前すごいな!
なんであんな時代に、あんな純粋な目ができたのか。
ー十次、信じてるよ。
誰よりも緊張感のないくせに、たまにそんなことを言うから気が引き締まった。
ー俺たちは最強だ!日本のため、待ってる人のため、明るい未来のために....!
迷う自分を、明るく照らし導いてくれたのは、いつだってお前だった...
____トキ
そう、ふと昔の物思いにふけっていたときだった。
「迷い込んだか...」
南雲の表情が固く引き締まった。
そしてすっと腰をあげた。
その頃、ユウヒたちと鬼ごっこをしていた詩。
何か、ざわっと気配を感じる。
それと同じ反応を示したのがユウヒだった。
先ほどとは違い、恐怖で青ざめるユウヒ。
「兄ちゃんっ
何かくる...っ」
ユウヒは震えた声で言った。
「ああ、俺も感じた...」
「なんか、黒いもの...
獣の匂い...」
そこで詩は山頂に来てからは使っていなかった式神を初めてだす。
その様子に、皆、わっと声をあげた。
「みんな!
下がって!
ユウヒも、みんなを避難させて」
そう言った瞬間だった。
何か赤いものが動いた。
「てまり!」
そして、紅蘭の叫ぶ声。
そこか....っ
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