課題と道場
基礎練習のあとは、ひたすら打ち合いと組手。
同じ動作を何度も何度も繰り返す。
ゆっくりと正確な動作を確かめ、できると少しずつスピードをあげていく。
先ほどの走り込みで南雲のペースについていった詩は、ひそかに、まわりの目を引いていた。
それに加えてまた、詩は皆の視線をひき驚かせていた。
少し訓練の経験があるとはいえ、詩はすぐに型を吸収し、上級生たちのスピードまでものの数時間で体得してみせたのだ。
そして道場内、とくにユウヒを含めた下級生たちと打ち解けるのも異様に速かった。
みんな、明るく面倒見のいい詩を兄のように慕い始めるのだった。
「詩兄っ
すげえや!」
「こんなに早く覚えるなんて!
俺にも教えてくれよーっ」
「詩兄ちゃん、かっこいいー!」
「なあ、南雲様と互角ってほんとー?」
そんな、子どもたちに囲まれる詩をみて、よく思えない者がいた。
「なにあれ。
精神年齢が一緒なだけよ」
紅蘭だった。
「あんなにみんなはしゃいじゃって。
南雲様、私たちはあっちで訓練しましょ」
紅蘭が言うが、南雲は動かなかった。
じっと、詩をみているようだった。
「南雲様...?」
紅蘭がつぶやいたときだった。
「さて、次は模擬演習よ」
黒峰の声が響く。
「一組目は、東雲 詩 対、紅蘭!」
その場がざわついた。
紅蘭もまた、空いた口が塞がらない。
「なっなんで私があんなやつと!」
呼ばれた詩も、いきなりのことに戸惑っている。
「嫌なの?
紅蘭」
静かな黒峰の瞳に一瞬黙るも、負けじと言う。
「いやよっ
あんな無礼者!
武芸を極める以前の問題よ」
周りからも、そうだそうだ、という声が少しきこえた。
詩を取り囲む下級生たちも心配そうな顔をみせる。
しかし、詩は状況を理解したのかしていないのか、からっと笑った。
「なんだ。
俺に負けるのが怖いのか?」
悪戯っぽく笑っていう詩の挑発は成功したようだ。
「誰が負けるですって!」
紅蘭は前にでる。
寧々さんも、みんなも...
南雲様だってあいつのことばかりみて...
昨日来たばかりの部外者なのに...
なんでみんな...
「いいわ。
私が相手してあげる。
ここで力の差を証明する!」
詩は確かに、さっきまでの紅蘭と雰囲気が違うことを察していた。
本気が、ひりひりと伝わってきた。
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