課題と道場
「今日からこの部屋、俺と一緒に使っていいぞ!」
ユウヒが案内してくれたのは、校舎の隣にある寮の一室だった。
校舎と同じ、すべて木造で古いけどところどころ丁寧に修理されていて、それがまた歴史を感じた。
ユウヒの部屋は、机が2つと2段ベッドがあった。
「相部屋なんだけど、今は俺一人だから気にするな!
ここだと12歳になるまで一人部屋が使えないんだけど、俺みたいな視えるやつと一緒の部屋なりたいやつなんていないから」
少し、ユウヒが寂しそうだった。
「ありがとう、ユウヒ」
詩は目を見て、笑いかけた。
「おう!
着るものとか必要なものあったら言えよ!」
小さな少年は少し照れながら鼻をこすった。
今の時間はみんな使っていないからとユウヒがいうので、共同のシャワーを借りた。
戻ると、ユウヒが大きなおにぎりと味噌汁を用意してくれていた。
「何から何までわるいな」
そう言って、詩は元気に「いただきます!」と言って、おいしそうにおにぎりを頬張った。
思えば、まともな食事は久しぶりだった。
「ここでは生活のことはみんなで協力してやるんだ。
食事も当番制でみんなで作って食べるし、掃除はもちろん、このボロボロの建物も、壊れたらみんなで直す。
そのおにぎりも朝食の残りだよ」
「うん、うまいよ!
みんなの手作りだからだな」
ユウヒは誇らしげに頷く。
「その米も、味噌汁に入ってる野菜も全部、村で作られたもの。
この山だけじゃない。
村のみんなで協力して暮らしてるんだ」
「すげえな。
ここって。
みんな、強いし、あったかい」
心の底から詩は思っていた。
「すべて、南雲様のおかげだよ。
すごく、偉大な人なんだ。
俺はずっと、アサ婆からも母ちゃんからもきいてたから」
本当に、心の底から憧れ、慕い、信じていることが伝わる。
「なあ、あの狐面のほうの南雲って、どこいるの?」
食べ終わり、詩はきく。
そろそろ、出された課題に取り組まねばと思っていた。
「ああ、それならきっと道場にいると思うよ」
「道場?」
「うん。
南雲様はこの山で一番強いんだ。
今はその道場の師範。
稽古をつけてもらえるのも、限られた人しかいないんだ。
今から行くなら案内するよ」
道場へ向かう中、ユウヒはいろいろと教えてくれる。
「ここだと、大人は南雲様一人しかいないから、勉強とかアリスのコントロールとかは上級生が先生の代わりになってみてくれるんだ。
道場の鍛錬もそのひとつ」
「鍛錬...?
みんな、武芸をやるのか?」
「あたりまえだろ。
...詩兄のいるところはやらないのか?」
ユウヒは首をかしげる。
どうやらここでは、武芸は年齢や性別に関わらず、みんな身に着けるもののようだった。
「ああ。
俺のいるところは、戦う人間しか、そういうのは身に着けないよ」
「へぇーっ
そうなんだ」
ユウヒは不思議そうな顔をする。
「武芸は、もちろん戦うためのものだけど、それだけじゃないんだ。
心も、アリスも強くするんだって、南雲様が言ってた」
心も、アリスも強くする...
山の中で戦ったあの2人の強さが、なんとなくわかってきた。
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