探し物
晴天の小春日和。
春の日差しが温かく、学園に咲く花々もいろどりを増し、鳥たちも嬉しそうに鳴いている。
詩は、その太陽の眩しさに目を細める。
そこへ、少し遅れて人影が現れる。
「よ!」
それに向かってあいさつする。
「おお、詩。
今日は張り切ってんな」
笑って返したのは殿だった。
「当たり前だろ。
今日はあいつらの入学式なんだからな」
そう言って、2人は式の行われるホールに歩き出した。
詩のいうとおり、今日は中等部の入学式。
専科2年の始業式は早々に抜け出し、2人はこちらに顔を出していた。
「ま、新しい門出だ。
見守りたい気持ちもわかるよ」
ホールに着いて、殿がそう言ったのに頷く。
新中等部生にとっても、それを見守ってきた先輩、先生にとっても、この日は例年にも増して大切な日に思え、気が引き締まった。
「わかってはいるけど、やっぱり蜜柑がここにいないのは寂しいな」
詩はそう、つぶやいた。
壇上では、委員長の飛田裕が、代表のあいさつをしていた。
「まあでも、あいつらみんなりりしい顔つきになったよな。
それも....蜜柑のおかげかな」
殿の言う通り、初等部だったあいつらは、みんな大人びたような顔つきをしていた。
蜜柑との別れを乗り越え、幼いながらもあの戦いをすぐそばでみて、共に戦った大事な仲間。
「蜜柑がいなくて、一番堪えてんのはあいつだろ...」
詩の見つめる方向には、棗がいた。
棗の気持ちを考えたら当然のことなのだが、珍しく取り乱す彼を落ち着けるのは、かなりの労力を要したことを思い出す。
「あいつ、たしか今日が退院してはじめての...」
「ああ。
今日からまた、正式に学園生活に戻るみたいだ」
「戻るまでずいぶん時間がかかったな」
殿内は何か察しているようでつぶやく。
「やっぱ時空の件があるからな。
まあ、棗は瀕死状態だったから具体的に何があったかは覚えてるはずもないんだけど...」
「それってのだっちが言ってた“時空のひずみによる災い”のこと?」
「ああ。
棗の帰還によって時空になんらかのひずみが生じ、それによって起きた影響...
それに関しては、のだっち含め、俺と櫻野も尋問を受けたよ。
でも一番の鍵を握っていたのは、乃木流架」
「え?」
意外な人物に、殿内は驚きを隠せない。
「るかぴょんがもっていた特殊なアリスのほどこされたイヤホンが、現在の一番の手掛かりだよ」
詩は、棗の隣に並ぶ、金髪の少年を見つめた。
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