課題と道場
一人取り残された詩。
視線を感じた方向に、赤い浴衣姿の小さな女の子がいた。
狐の面を首にかけ、こちらをじっと見つめていた。
あ、もしかして...
しかし話しかけようとするとその子は、人影に隠れ、見失ってしまう。
「あ、待って...!」
あの時助けてくれた、お礼を言いたかったのに...
詩が呆然としていると、その足元に小さな人影が現れた。
「兄ちゃん、アサ婆の家んとこ行ってきたのか?」
「え...」
突然のことに戸惑う詩。
みると、8歳くらいの男の子がこちらを見上げていた。
くりくりとした目に頬のそばかす。
そして栗色のくせ毛。
初めて会った感じがしないのは...
「あと、俺の母ちゃんに会っただろ」
そこで納得した。
「君、もしかしてマヒルさんの?」
その名前をきいて喜ぶ彼。
「やっぱり!
母ちゃん、元気だった?」
飛び跳ねるように詩の言葉をまつ少年。
「ああ。
元気だったよ。
すごく、やさしくしてくれた」
心配そうに困ったように見つめるマヒルの顔が浮かんだ。
それも、やさしさからだということは詩にはわかっていたから。
「だろ?
俺の母ちゃん、やさしいんだーっ」
自慢げに言う少年は、人懐っこくかわいかった。
「俺はユウヒ。
よろしくなっ」
「ユウヒか、良い名前だな」
詩も笑いかける。
「ユウヒ、じゃあお前も視えるのか?」
アサ婆やマヒルと会ったことを言い当てた彼に、問う。
「うん!
って言っても俺が視えるのは、匂いなんだけどな」
「匂い?」
詩は初めて聞くアリスに首をかしげる。
「俺には匂いがかぎ分けられるのと同時に、それが色とかオーラみたいになって視えるんだ。
さっきも、アサ婆の家の匂いがしたし、母ちゃんの匂いもしたから。
アサ婆の家の匂いは紫色なんだ。
母ちゃんは、薄い黄色っ」
「へぇーーーっ
なんかおもしろいなっ」
詩は笑って言った。
「ユウヒは、俺のことなんとも思わねーの?」
「え?」
今度はユウヒが首をかしげる。
「ほら、みんな俺に近づきたくなさそうだからさ」
周りを見渡すと、確かにみんなこちらをみてひそひそ話している感じだった。
「みんな、本当の兄ちゃんが視えてないんだよ。
俺には視えちゃうから。
詩兄の匂いは、すごく天狗の南雲様に似てるんだ。
南雲様がその式神のアリスが嫌いって言うのはたぶん嘘。
だってすごく、相性のいい匂いがするんだもん」
言われてはっとした。
この、曇りのない瞳に言われて、少し自信を取り戻す。
そして改めて思った。
祖父のことが知りたい。
さらに加えて今日思ったこと。
こんなに皆から慕われる南雲についても、知りたい。
祖父と、南雲が歩んできた道。
アリスへの思いが、知りたい。
詩は、子どもたちがはしゃぎまわるあたりを見渡した。
ここで、みんなの信用を勝ち取ってみせる。
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