課題と道場
「なあ、南雲のじいちゃん
俺、ききたいことがあってここにきたんだ」
その詩の一言に、周囲の顔は引きつる。
「な、南雲様になんて無礼な!」
「何者なの?!
あの人...」
「“様”をつけて呼べ!」
当の詩はそんなヤジはもう気にしていなかった。
そんな詩を、南雲はじっと見つめていた。
「南雲様!
私も納得ができません!」
一人の少女の声が、ヤジの間をぬって響いた。
先ほど戦ったばかりの少女だった。
確かみんなに紅蘭と呼ばれていた。
「なぜ、このような者を、村へ...
山へ入れたのです?
この者のアリスは南雲様が最も嫌悪するアリス...
式神使いなのですよ!!」
その言葉に、一層まわりはざわつく。
それは異様なものだった。
南雲が最も嫌悪するアリス...
詩の心に、それがひっかかった。
確か南雲は、詩の祖父、時の旧友のはず...
それがなぜ...
「東雲 詩」
それまで黙っていた天狗の面の南雲が、口を開く。
周囲はその言葉を静かに待つ。
「お主の聞きたいことは大方予想がつく。
しかし、すぐにその答えを言うことはできぬ。
本当にお主にその素質があるのか...
確かめ、見極めねばならない。
何よりここはわしの山でもあるが、この子らの大切な場所でもある。
わしと、そしてこの子らの信用を受けない限り、この山にいることは許さん」
厳しい南雲の言葉。
「どうすれば、いいのですか?」
詩は静かに問う。
「簡単じゃ。
そこにいるわしの孫の面を、とれ。
ただし、アリスの使用は認めない。
期間は1週間以内。
それまでにこれを達成しなければ、この山を、村を出て行ってもらう。
むろん、無事に出られればいいがな...」
そう言ったが最後、南雲は自分の屋敷へと籠るのだった。
残された子どもたちはそれぞれいた場所にぽつぽつと戻り始める。
「よかった。
南雲様の面をとるなんて無理に決まってるもん」
「この山で一番強い南雲様が、負けるわけないもんね」
「ねえねえ、式神使いって、そんなに恐ろしいの...?」
子どもたちのそんな声がきこえた。
詩は改めて、キツネの面の少年のほうを向くが、とっくにその場からはいなくなっていた。
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